第14話 私と心先生と体操

「さあ、ラジオ体操の時間だよ!」

 心先生ご乱心。

 逆さから読んだら心乱ご先生心でカオス。

「変なこと考えてない?」

「変なことを考えてしまうくらい、先生のテンションが変ですね」

 私は仕事終わりに着替えつつ、先生を横目で見る。

 うん、元気いっぱいだ。

「最近ニュースでさ、ラジオ体操で怪我したりする子がいるってのを知ってさ。じゃあ、歳を重ねた私たちはどうなんだろうって思ったの。さすがに、ラジオ体操現役バリバリ世代だから、怪我はしないだろうけど、自分の体の程度を知っておくのもありかなって」

 なるほど、続・健康回というわけか。

「まあ、確かに子どもの運動能力の低下は問題になってますが、歳を重ねた私たちもそれなりに」

「そそ。だからさ、私たちもやってみようよ、ラジオ体操」

 やる気満タンといった感じに、心先生は体操っぽい動きをし始める。

「いやでも、私たちは子どもじゃないですし、体の程度なら健康診断で測れますし」

 仕事終わりに体動かすのはシンプルに辛いっす。

 今、体が欲っしているのはアルコール一択。

「いいじゃーん。やろうよー。それに健康診断は体の中身は見ても、体の外側は見ないじゃん」

「それは一理あるんですが……」

「ですがなーに?」

 心先生は不満気に腰に手を当て、口を尖らせる。

「私、ラジオ体操やったことないんですよ」

「は? なんで?」

「いえ、小さい頃に住んでた街にシンプルにそういう文化がなかったというかなというか」

「待って……。じゃあ、千夏は夏休みという遅く起きても許されるはずの期間に朝六時くらいに親から無理やりに起こされて、閉じそうになってしまう瞼を必死にこじ開けながらふらふらと体操会場までの道を歩き、参加カードに謎のスタンプをよく知らないおじさんに押され、帰りに高くなり始めた太陽に肌を焼かれる、そんな経験をしたことがないの!?」

 大げさに後ずさり、信じられないといった感じに目を見開く先生。

「先生の思い出、ラジオ体操の附属品過ぎますって。まあ、それは置いておいて、やったことないので私はパスしますね」

「じゃあ、教えるから! 教えるからやろう! ラジオ体操を知らないままの千夏とはお酒を飲みに行けない!」

「いや、そこまでして運動したくな……」

「ほら立って! まずは両手を大きく上げる運動かうぎっ!」

 かうぎっ?

 大きく手を上げた瞬間、変な語尾を炸裂したと思ったら、先生はそのまま蹲ってしまった。

「こ、ここここここここここっこ」

「こここ?」

「腰、やっちゃったかも……」

「え?」

「とととととととと、とりあえず、飲みに行こ?」

「いや、無理ですって」

 他の人にも手伝ってもらって先生を休憩室のベッドに寝かせ、適切かつ迅速な処置を施した。

 そのおかげで、先生は翌々日には仕事に復帰できた。

 どうやら先生は、長時間のオペ後に急激に体を動かしてしまったことが駄目だったらしい。

「千夏との時間を奪ったラジオ体操が憎い」

 快気祝い(?)で先生のラジオ体操への恨み節を受け止め続けたのはまた別のお話し。


 

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