第12話 私と心先生と自宅
「ちひゃつぅ……ごめんねぇ」
「はいはい」
二人での飲み終わり。
私は酔いつぶれてしまった先生をおんぶして先生の自宅へと向かう。
普段はそのまま私の家に連れて行くんだけど、今日飲んだ場所が珍しく先生の家の近くだった。
「あう……。でも、家きひゃない」
呂律の回らない舌で先生は自宅の汚部屋具合を心配する。
「大丈夫ですよ。今さらですし」
言って、私は笑う。
何度か先生の部屋には行っているから、部屋の状態は把握している。
先生の心配をいなしながらしばらく歩くと、それなりの高さを誇るマンションへと着いた。
私は迷うことなくエントランスに入り、迷うことなく先生の部屋へとたどり着く。
「ほら、つきましたよ」
私はリビングまで入ると灯りを付けた。
「……」
先生は汚部屋なんて言うけど、とんでもない。
部屋には壁に沿ってぎっしりと本棚が敷き詰められ、そこには数多くの医学書が所狭しと並べられている。
その中から興味を引いたもの、今、学ぶべきものをピックアップし、先生は読み込んでいる。
先生は真剣に医師をやっている。
普段のふざけた感じからは想像できないほど、真面目に医療の現場に立っている。
私と二人の時におちゃらけるのはその反動。
どこかで張り詰めた空気を抜かないといけない。
それは私も同じ。
先生との時間が、いい息抜きになっている。
「千夏、いい匂い」
スンスンと、おんぶされたままの先生は私の首筋に鼻を近づけてくる。
「いや、ちょ……!」
焦った私はバランスを崩し、そのまま近くにあったソファに倒れ込んでしまう。
私よりも遥かに小さい先生を潰してはいけないと、なんかと体を半回転させ、先生とソファの間に入ることができた。
「う、ううん」
「あ、ちょ、先生……」
心先生は私の胸に埋もれてしまった顔を、そのまま左右に振る。
「うはぁ。千夏の濃い匂い」
「濃いのはなんか嫌です! 柔らかさならまだしも、匂いのレビューはなんか嫌です! どいてください! 帰りますんで!」
「えー、泊っていってよぉ
先生は微かに顔を上げ、こちらに潤んだ瞳を向ける。
「今日、一人は寂しい……」
これもわかる。
仕事に生きているのは自分の選択なのに、ふとした時にどうしようもなく寂しさが顔を覗かせてくる。
こうして、飲んだ後なんかは特に。
もしかしたら先生、家の近くで飲んだせいでいつも以上に寂しくなったのかもしれない。
「……今晩だけですよ」
私の心は先生の寂しさに寄り添うように、形を変える。
ううん。
私の心も寂しさで少し形が変わっていた。
だから、ちょうどよかったんだ。
「ありひゃとぉ」
そこまで言うと、先生は私の胸に顔を置いたまま、寝てしまった。
私も先生を乗せたまま眠りにつく。
二人で寄せ集めた温もりを胸に。
翌日、「千夏の胸、柔らかいのはいいけど柔らかすぎて端に逃げてくからあばらが頬に当たって痛かった」とのレビューを頂戴した。
匂い以外のレビューもなんか嫌でした!
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