第27話 妹のとある独白
今回の話に関してはちょっとしたTRPG時代の設定を入れてます。
本来カクヨムに投稿する際にカットしようと思ったのですけど作品の根幹にも関わる話でもあったので本筋には関わらない程度に抑えて載せようと思いました。
ただ設定としてはあるけどそれを本筋に関わらせることもないので真相は作品中に出ないかもしれないので近況ノートに載せておきます
ちなみに多分興味ない方はそのまま本編だけ読んでもらっても問題ないとは思います(ストック切れた人のあやふやな話)
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朝宮綴視点
「お兄ちゃん、元気そうだったなぁ」
久しぶりに聞いた、兄の声。
どこか懐かしくて、少し照れくさくて、それでも心がじんわり温かくなる。
スポーツ推薦で選ばれたあの高校、あの街──かつて、私たちが一緒に暮らしていた場所。
「元気そうだし、あの声音……もしかして、いい人でも見つかったのかな」
そんなことを呟きながら、私は通話を切った後もしばらく携帯を見つめていた。
私は昔から、嘘をつくのが得意だった。
それは、子どもらしいちょっとした悪戯から、時には人を騙してしまうような、そんなものまで。
だけど、皮肉なことに――いや、当然のように、人の嘘もよく見えた。
兄のちょっとした語尾の震え、タイミングのずれた返事、いつもと違う口調。
全部、私には手に取るようにわかる。
たとえば、エロ本の隠し場所なんて朝飯前。
あのときだってそうだった。母が「ふたりで食べなさい」と冷蔵庫に用意してくれたプリン。
兄がこっそり一人で食べてたのを見つけて、私は泣きながら皿をシュートしてやった。
……だけど、今の兄の声は、少し違っていた。
どこか幸せそうで、誰かを想っているような、そんな声音。
「さて、お兄ちゃんの“いい人”は、どんな人か確かめないとね。それに……」
私の中にあるのは、単なる妹としての好奇心だけじゃない。
……ううん、たぶん違う。
もしこれだけなら、私は典型的なブラコンなのかもしれない。
でも、それとも少し違っていて――言うなれば、「安堵感」だった。
理由は分からない。
でも、兄が笑ってくれている、元気でいてくれている──それだけで、私は救われたような気がした。
まるで、一度失ってしまった誰かが、何事もなかったかのようにそこに生きていてくれるような、そんな感覚。
(……変だよね。お兄ちゃん、ちゃんと生きてたのに)
思い返す。
兄が「あの街の高校に行く」と言ったとき、私に「一緒に来ないか」と言ってくれた。
けれど、私はうなずけなかった。
──怖かったのだ。
あの街に戻ることが。
そこに何があるのか、自分でもよく分からなかった。
ただ、漠然とした“罪悪感”だけが胸にこびりついていた。
まるで、私はあの街で“何か”をしてしまった、あるいは“してしまいそうだった”という、根拠のない直感。
私の中のどこかが、あの街を拒絶していた。
(それでも)
「お兄ちゃん、きっと私には……会いたいって思ってるだろうし」
「お母さんからもお願いされたしね」
理由はそれで十分。
それに、売り子も確保しなきゃいけないし。
今年の夏コミは個人での初出展になるのだ。
準備だけでも山積み。兄の住むあの街で開催される地元即売会にも顔を出す予定だし、スケジュールは過密そのもの。
「……まあ、兄の“いい人”がどんな人かを見てみたいっていうのが、いちばんの本音だけどね」
私が納得できる人じゃないと、兄には任せられない。
そんなことを考えながらも、私は目の前に積まれたプリントを睨みつけた。
夏休みの前には、期末試験という地獄がある。
加えて、原稿の締め切りという更なる地獄が待っている。
「……全部終わったら、会いに行くからね、お兄ちゃん」
これはそのための戦い。
負けるわけには、いかない。
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