第22話 あの言葉の意味

三津原さんと別れたあと、俺は教室に戻った。


夕方の教室はしんと静まり返っていて、窓から差し込む光が、机の上を朱に染めている。


そんな中、静かに近づいてきた影がひとつ──


「新。……詩織からの話って、なんだったんだ?」


やっぱり、悠二だった。


「うーん、まあ実はなんだけど……」


悠二は三津原さんの幼馴染で、俺にとっても信頼できる相手だ。

だから、俺は隠さず、話すことにした。


彼女が幼い頃に両親を亡くしたこと。

妹を守るために、泣くことも頼ることもやめて強くなろうとしてきたこと。

でも、それを乗り越えるために、「人を頼れるようになりたい」と思ってくれたこと。


──そして。


「……だからさ。俺に、“もう少しだけそばにいてください”って言ってくれたんだ」


そこまで話すと、悠二は黙った。

しばらく何かを噛み締めるような顔をして、ぽつりと呟いた。


「なるほどな……あいつにも、頼れる相手が見つかったか……」


どこか、ほっとしたような──でも、ほんの少しだけ寂しそうな響きが混じっていた。


「うん。俺も、三津原さんの“練習相手”になれるように、頑張らないとね」


「……そうだな。詩織の彼……ん?」


「どうしたの?」


「……なあ、新。お前さ、詩織の“そばにいてほしい”って言葉を、どう受け取った?」


「え? どうって……」


少し考えてから、素直に答えた。


「“他の人にも頼れるようになるための練習”って意味でしょ?

俺にそう思ってくれたって、嬉しいよ」


悠二はその言葉を聞いて、顔を手で覆った。


「……ああ。そこまでは、わかる。わかるけどさ……」


「?」


「いや、……野暮なことは言わないほうがいいか」


「え、なに? 気になるんだけど」


「なんでもない。気にするな」


「それならいいけど……」


「ま、俺から言えるのはひとつだけだな。ありがとう、新」


「え?」


「詩織の力になってくれて。

俺たちじゃ、詩織の重荷はどうしても軽くできなかった。

あいつが前に進めたのは……間違いなく、お前のおかげだ」


「う、うん。そう言ってもらえるなら、良かったけど……」


悠二は、それ以上何も言わなかった。

けれど、最後に小さく呟いた言葉は、どこか皮肉めいていた。


「……なんというか、詩織も苦労しそうだな……」


まるで、見守る者の覚悟のように。

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