第10話 学生が必ず通る苦行



──中間テストも終わり、生徒たちにようやく平穏な日々が訪れ──


……なかった。


「悠二……」


「見るな……俺をそんな哀れなものを見る目で見ないでくれ……

というかお前、勉強できたのかよ……? スポーツ推薦の癖に……俺はお前のことを仲間だと思ってたぞ……」


補習行きとなった悠二が、まるで魂を抜かれたような目でこちらを見ていた。


「……スポーツ推薦に対する偏見がひどいね。

まあ、一人暮らしの条件が『赤点を取らないこと』だったから、必死だったんだけど」


「それにしてもさ……俺、初めて見たぞ。詩織が首位を陥落させたの……」


そう、今回のテストの成績──

悠二に関しては本人への情けのために控えるが

俺が1位、三津原さんがわずか数点差で2位だった。


ちなみに今、三津原さんの視線が……すごい。

いつもなら嬉しいって思うけど、今日だけは……正直、怖い。

目を合わせることすら躊躇われるくらいのプレッシャーが、教室の一角に漂っていた。


「朝宮君……すごいですね?

私、初めてですよ。他の人に抜かされたの」


「み、みたいだね……

で、でも凄いよ、三津原さんが2位なんて!」


「1位のやつが言うと、自慢にしか聞こえねぇな……」


悠二が茶々を入れてくる。


そんな中、ふと──


「……次は、負けないもん」


「え?」


本人も無意識に口に出たのか小さく、だけど確かに聞こえた。


顔を向けると、詩織さんは微笑んでいた。

いつもと同じような、優しい笑顔。でも、そこには小さな闘志の光も宿っている気もする。


「何かありましたか、朝宮君?」


「ううん、何もないよ?」


「少しムキになっちゃいましたね、ごめんなさい

 初めてだったからびっくりしちゃって」

「ううん、別に気にしてないよ」


「首位と次点が言ってると思うと自慢にしか聞こえねぇ……」


「三津原さん打ち上げでもやりますか悠二の奢りで」


「良いですね

 結花さんに連絡しておきます。」


「二人ともすみませんでした」

悠二の土下座が教室に炸裂し三津原さんと笑い合った。



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