第6話 和服メイドの素晴らしさ

「恨みますからね、結花さんと悠二君」

と、詩織さんがやや落ち着いた声で言った。


しばらくして、少し気を取り直したのか、詩織さんが再びフロアに戻ってきた。

結花さんは、何事もなかったかのようににこやかに微笑む。


「おかえり、詩織ちゃん。さっきの姿は、さすがうちの看板娘だね。詩織ちゃんのためにその服を作った甲斐があったよ」


確かに、改めてじっくり見てみると、三津原さんにはその緑色の和風メイド服がとてもよく似合っていた。

白亜麻の髪色も相まって、彼女の明るく清楚な印象に、緑の色彩が落ち着きと華やかさを加えている。


さらに、そのメイド服は小柄ながらも出るとこは出ているプロポーションをさりげなく引き立てており、彼女本来の魅力までも余すことなく際立たせていた。

まさに、彼女のために仕立てられた一着といっても過言ではないだろう。


──しかも、三津原さん自身もそのことを自覚しており、恥じらいを見せることで、さらにその魅力を増しているようにも見える。

それすらも結花さんの計算なのかもしれない。


「……何処を見てるのですか、朝宮君?」


「え、あ……三津原にすごく似合ってるなって、その服」


「朝宮君もこの良さをわかってくれたね。そうなんだよ、彼女のおかげで売上も上がってるからね。生美少女高校生の和風メイド服、様々だよ」


「結花さん、いやらしい言い方はやめてください。怒りますよ」


「おっとっと、怖い怖い。助けて朝宮君、詩織ちゃんがいじめる〜」


「俺を巻き込まないでください!」


「……本当に、もう。朝宮君、コーヒーどうぞ。いろいろと迷惑かけたお詫びだから、気にしないでください」


「ありがとう、三津原さん」


「……俺にはサービスはないのか?」


「あると思いますか、宵宮悠二君?」


「すみませんでした」


新は、三津原さんが怒るとけっこう怖いということを、身をもって理解した。


千町結花視点


 

朝宮君を見送った後、詩織はキッチンの作業に戻り、フロアには私──千町結花──と宵宮君だけが残った。


結花はぽつりと呟いた。


「あの子が人前であんな顔をするなんてね……」


宵宮君は遠い目をしながら答える。


「ええ、俺もびっくりしました。詩織のあんな表情、何年ぶりだろうか……」


「朝宮君だっけ。彼は、詩織ちゃんの過去を?」


「いえ、知らないですよ。さすがに俺から話せることじゃないですし」


「……そうだね」


結花は、キッチンで作業する詩織の背をそっと見やる。


──今でも、あのときの彼女の姿が鮮明に思い出される。

まだ子どもだったのに、すべてを一人で背負い込もうとしていた。

今にも壊れてしまいそうだった彼女を、私はほんの少し、その重荷を分けてもらうことしかできなかった。救うことなんて、とても──


(でも……朝宮君なら、もしかしたら……)


そう思いながら、結花は静かにコーヒーを一口啜った。

 

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