くっそ可愛吸血鬼に選ばれてその眷属になった俺

@kirisames1ae7

闇の中の闇

 全てが黒、黒に染まっている。毎日する食事も、家で見るYoutubeも、かつてあんなにのめり込んでいたゲームでさえも、一つとしていつからか色が付くことがなくなってしまった。そんな怠惰な毎日を過ごしていた俺は適当にコンビニでバイトをして、適当に人生が終わるのを待っていた。

 いつものように家から程近い、駅前の繁華街でコンビニバイトを終えた俺は夜も深まってきた午後十時頃帰路に着く。聞き慣れた入店音が背中で、お疲れ様、また明日♪ なーんて歌っている。

 うるせぇ、もう二度と出勤してやるか!と心の中で無駄な抵抗をしてトボトボと歩き始める。吹き抜ける五月の夜風が気持ち良い......俺の心中とは全くの逆だ。街はまだまだ賑やかで二軒目に繰り出すリーマンのグループや、やる気のあったりなかったりするキャッチ達がその喧騒を彩っている。

 はぁ、今日も足が重い。しかし最近はうちのバイトにも外人が良く応募してくるな。留学なんて言ってたがちょっと羨ましいかも。少なくとも俺よりはマシだなぁ、留学のその先があるんだから。


 なーんてくだらない思考を巡らせていると20m程先、切れかけては時折光を取り戻すネオン看板の下に人影を見つけた。客引きだろうか。小柄だがスタイルは良く、スレンダーな体型に黒のドレス。

 歩を進めるごとに、チカッ、チカッ、とネオンで照らされる横顔までクッキリと見えてくる。......少女?鋭い目つきをしているがかなり若いように思える。服装と年齢が釣りあってない気がするが、似合ってないというわけではない。

 それどころかそのギャップから異質な雰囲気を纏って吸い込まれそうだ。これ以上観察するのは視線に気づかれそうだったので、少女から目を外しその前を足早に通り過ぎる。その時だった。


「......貴方に決めたわ」


俺の進行方向に回り込み、立ち塞がった少女はそう言い放った。ん? 俺? 俺だよな。決めた? Why?


「えっと、どういうこと?」


自らの疑問をストレートに問いかける。わけがわからん。


「私、吸血鬼よ。貴方を私の眷属にするわ」


 わたしヴァンパイア? 良いの? これちょっと前に流行った曲でしょうか。


 少女をもう一度よく観察する。バランスの整った端正な顔立ちでとんでもない美人だ。青髪で髪はミディアムくらいだろうか。サイドでお団子を作りアクセントが効いている。片耳にルビー色の雫型イヤリングをしており、金のブローチが黒のドレスに映える。そして何より目を引くのは目の色だ。宝石のように綺麗な紅色をしている。カラコンだよな?


「あはは、冗談はよしてよ」


はぁ、と溜息をつき少女はその細く白い腕を組む。


「冗談じゃないわ、今すぐにここで貴方を獲物にしても良いのよ」


 そういうと少女は自身の唇に人差し指をあて、上へ動かし犬歯を覗かせる。その犬歯は異常に発達しておりナイフのように鋭く尖っていた。俺がゴクリと息を呑むと少女はパッと指を離す。


「ね。わかったでしょう」


「かっ、仮に君が本当に吸血鬼だったとして、どうして俺を選ぶわけ?」


 これが一番わからない。この話が本当だったとしても、もっと適正あるやつがいるだろ?なにも明らかに社会の底辺を這いずり回っている腐り切ったこの俺を捕まえなくても......


「あなたの目よ。全て諦めたような目。退屈そうな目。この世界なんて要らないって言うその目よ」


返された言葉にぐうの音もでない。見事に核心をついていた。この子はちゃんと“俺”がみえていて、その上で声を掛けてきたというわけだ。となれば俺が彼女に興味を持つのも当然の事だった。


「なるほど......話はわかったよ」


「そう、じゃあとにかく私のところに来て」


そう言うと少女は僅かに微笑み、こちらに手を差し出した。

彼女の手に自身の手を重ねる。


「行くわよ」


今、暗闇の中で、確かに闇が光り始めた。

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