第3話「“魔女教”と魔獣人②」


 マリの双子の妹である“白瀬麻美まみ”のことを知っていると思われるトカゲ女(トカゲと言っても、トカゲのような尻尾は無く、体勢も斜め前傾姿勢ではなく、普通の人間ような直立姿勢で、顔の見た目や腕、足、全身の鱗などからトカゲのように見えるだけだが)。

 俺とマリはそのトカゲ女からマミの情報を聞き出すべく、マジョリティブラックとマジョリティホワイトに変身してトカゲ女と相対していた。



『マミ様にアピールさせて頂くためにもっ!、アナタにはわたくしと共に来てもらいますわよっ!!』



 3メートルはあろうかという巨大なトカゲ女は、地面を揺らしながらこちらへと向かって走ってくる。



『『ファイアスラッシュ』っ!!』



 そして、炎をまとわせた爪で、俺達に切りかかってきた。

 俺はホワイトをかばうように前に出て、シールド魔法を展開した。



「『シャドゥシールド』っ!!」


『何…っ!?』



 『ファイアスラッシュ』を防がれて驚愕の表情を浮かべるトカゲ女。

 確かに、普通の“魔法師”であれば使えないハズの闇の魔法によって防がれたわけだから驚くのも無理は無いが、それにしては反応が大袈裟過ぎる気がする…


 だがそれはそれとして、トカゲ女に大きなスキが出来た。

 このスキに、ホワイトがトカゲ女の背後に回り込んで、魔法を放った。



「『アクアアロー』っ!!」


『がぁあっ!?』



 ホワイトの放った水の矢がトカゲ女の背中に突き刺さる。

 本来マリは“炎の魔法師”であるのだが、マジョリティホワイトが変身に使う“マジストーンホワイト”は特別で、炎、雷、水の魔力元素を含んでいるため、ホワイトはそれら三属性の魔法を使う事が出来るのだ。



『ぐ…っ!?まさか…、お前は…っ!?』



 ホワイトの『アクアアロー』を受けたトカゲ女だったが、少しよろめいただけで大したダメージは受けなかったようだ(全身を覆う鱗のせいで、防御力が上がっているようだ)。

 そのトカゲ女が、今度は俺の方を見ながらこう言ったのだ。



『マリ様しか目に入っていなかったが、お前のその姿…!まさかマミ様の想い人であらせられる様か!?』


「確かに俺はマサトだが…、アンタに様付けで呼ばれる筋合いはねぇぞ?」


『なんと…っ!!今日のわたくしは本当についているっ!!最初は退屈な任務だと思っていたが、まさかまさかっ!!こんな場所でマミ様の大切なお二人と出会えるなんてっ!!』



 俺の正体に気付いたトカゲ女は、一人で勝手に感極まり、盛り上がっていた。

 対して俺達は努めて冷静に対応する。



「それは私達のセリフよ。まさか、こんな所でマミに繋がる貴重な情報源に出会えるなんてね!」



 トカゲ女の背後にいたホワイトは、今度は正面に回り込んで魔法を放った。



「『サンダーボゥル』っ!!」


『おっと!』



 背後に比べて腹部の方が皮膚が柔らかいだろうと判断しての攻撃だったが、トカゲ女はその巨大に似合わぬ速さで横へと移動してホワイトの攻撃を避けた。



『『ファイアスラッシュ』っ!』



 そして続け様に魔法を放つトカゲ女。

 空中移動からの魔法を放った直後で咄嗟に動けないホワイトの元へと駆け寄った俺は、ホワイトを抱いて空中へと飛んだ。



「ありがと、ブラック!」


「どういたしまして!」


『逃がしませんわよっ!!『ファイアアロー』っ!!』



 空中へ逃げた俺達へ向けて、トカゲ女は口から炎の矢を無数にランダムな軌道で発射してきた。



「『ファイアシールド』っ!!」



 対してマリが咄嗟に炎の盾を張って炎の矢を防ぐが、数本防いだところで、盾が粉々に砕かれてしまった。



「そんなっ!?」


「くっ!?ホワイト、しっかり掴まってろっ!」


「え、きゃあっ!?」



 俺はホワイトを抱えた状態で、さながら弾幕系シューティングゲームのごとく、飛んでくる炎の矢を全て空中で回避していく。

 その際、我ながらあまりにもデタラメな軌道を描いて飛んでいたため、ホワイトは「キャアアアッ!?」と絶叫マシーンに乗っているかのような悲鳴をあげていたが…



『な…っ!?何て軌道で飛ぶの!?まさか全て避けられるなんてっ!?』



 トカゲ女も、さすがに全部を避けられるとは思っていなかったようで、驚愕の表情を浮かべていた。



「悪いな、俺は避けるのだけは得意なんだよ!『シャドゥボゥル』っ!」



 力の制御などろくに考えずに放った『シャドゥボゥル』は、直径2メートルくらいの巨大な黒い塊となって、トカゲ女の顔へと向かって豪速球で飛んでいった。



『なぁっ!?ちょっ、待っ…、ギャアアアアアアアアっ!?!?』



 そのあまりにデタラメな『シャドゥボゥル』初球魔法の姿に、トカゲ女はまた別の意味で驚きの声をあげ、『シャドゥボゥル』が顔面に直撃すると同時に大爆発を起こし、叫び声をあげながら背中から倒れていった。



「や、やった…?」


「ホワイト、そのセリフはやってないフラグだから言っちゃダメだ!」



 ホワイトが目を回しながら、定番フラグなセリフを言う。

 して、案の定トカゲ女はやられておらず、顔面を黒焦げにしながらも、ふらふらと立ち上がった。



『な…、なるほど…!これが、マサト様の…、【たる者の力、というわけですのね…?』


「【、だと…?」



 またよく分からないことを言い出すトカゲ女。

 さっきは俺のことを、“マミの想い人”みたいに言っていたが、今度は“魔女の夫”ときた。



「それってつまり、とでも言ってるのか…?」


『ああ…!素晴らしい!!我らが【魔女】マミ様に三属性の魔力を操るマリ様、そして闇の魔力を操るマサト様が揃えばっ!!我らが新生“魔女教”は完成するっ!!我らが理想とする世界がっ!!目の前にっ!!』


「…ダメだよブラック、あの人、私達の話全然聞いちょらん」


「みてぇやな…」



 トカゲ女は自らの妄言に夢中になるあまりに、こちらの様子すら目に入っていないようだった。



「…で、どうする、ブラック?」


「そうやな…、見た感じ、ある程度のダメージであれば普通に通用するみたいだ。とはいえ、まだ威力も狙いもろくに制御出来とらん俺が魔法を使えばアイツを殺しかねんし、そもそもあと何発も魔法を撃てるだけの体力も無ぇ…」



 さっきの『シャドゥボゥル』にしても、ヤツの腹を狙って放ったものだったし、無茶な飛行に加えて無駄にマナを使ったせいで体力的にもそろそろ限界だ。

 マナは大気中に存在するものだから、完全にゼロになるということは滅多なことでは無いが、魔法を使う“魔法師”の体力には限界がある。

 俺はただでさえ中学までは病弱でほとんど運動なんかしてこなかったわけだから、体力は自慢では無いがマリ達より少ない。



「アイツは貴重な情報源やけん殺すわけにはいかんし、ブラックにも無茶はさせられん。ここは、やっぱり私が決めるしかないよね!」


「ああ、頼む!サポートは任せてくれ」


「分かった!でも、くれぐれも無茶はせんでね?」



 さて、あまり長引くと“第12魔法都市守衛魔法師部隊”(略して“守衛隊”)の人達が来てしまう。

 そうなると、俺達の攻撃魔法不正使用の件をとがめられたり、“守衛隊”の人にトカゲ女を確保されて、マミに関する情報も得られなくなるかもしれない。



「そうなる前に、一気に片付けるぞ!」


「了解っ!」



 俺達は改めて、トカゲ女を捕らえるために気を引き締め直した。





 第12魔法都市八幡やはた東区にある“スペースOUTLETアウトレット北九州”にて、謎のトカゲ人間の集団が現れたという情報が、“第12魔法都市守衛魔法師部隊”を通じて私こと、緑川瑠璃るりの元に入って来た。



「本当に彼らはよくトラブルに巻き込まれるね〜、あるいは、黒霧兄君がトラブルを呼び寄せているのか…?」



 今、黒霧兄君達が彼の“マギアコンパクト”に、私が新たに追加した機能“TSモード”でくだんの“スペースOUTLETアウトレット北九州”にてデート中であることは、彼らの持つ“マギアコンパクト”や“マギアソード”に仕込んでいるGPSチップからも明らかだ。

 そして、その反応から、現在変身して戦っていることも分かっている。



「やれやれ、こちらの許可も無しに勝手に変身するなんて、色々と事後処理が大変なんだぞ?」



 “魔法師”が街中で許可なく魔法、特に戦闘魔法を使うことは、基本的に国際条約で禁止されている。

 これは一般人が街中で無許可で銃を発砲することが禁じられているのと同じことで、街の秩序を守るために必要な措置だ。


 その上さらに、黒霧兄君達は学生の身であるからして、余計にその辺りは厳しく制限されている。

 先日の門司港もじこうにおけるゴブリン襲撃の際も、彼らはあっさり変身許可が降りたかのように思っているかもしれないが、その裏でかなりの無茶を私が押し通したから、彼らは変身して戦えたのだ。



「ま、その程度の無茶で貴重な【マジョリティ】システムの実践データが得られるなら安いものか…」



 私はそう割り切って、今回も無茶を押し通すつもりで動き始めた。



「それに、いくつか気になる点もあるしね」



 通報の中に、“魔女教”という単語が出てきているのが特に気になった。

 “魔女教”と言えば10年前に大規模な幼児誘拐事件を起こして以降音沙汰が無かったが、ここにきての活動再開、そしてトカゲ人間達の正体…

 “魔女教”とトカゲ人間達にどのような関係があるのか?

 


「とりあえず、“守衛隊”には現場付近で待機してもらい、黒霧兄君達の状況次第で加勢してもらうことにし、トカゲ人間達に関しては確保次第、何人かウチ第12魔高に回してもらうよう手配してもらうか」



 トカゲ人間の正体を探るためにも人体実験…、ではなく、詳しく調査する必要があるからな!



「というわけでだ、マジョリティブラック、マジョリティホワイト、決して無茶はせず、だが決して負けるんじゃないぞ!」



 まぁ、私の開発した【マジョリティ】システムがそう簡単に敗れるとは考えていないがな!





 俺はホワイトを空中で離し、ホワイトにはその場で待機してもらう。



「っしゃあ!行くぜっ!!」



 身軽になった俺は先程よりもさらに速いスピードでトカゲ女の周りをぐるぐる回り始めた。



『相変わらず何という速さっ!!さすがはマサト様っ!!ですがっ!『ファイアスラッシュ』っ!!』



 トカゲ女は炎をまとわせた爪で、周囲を飛び回る俺に向かって的確に攻撃してきた。



「なっ!?」



 俺は咄嗟に両手をクロスさせて爪を防いだが、完全には勢いを殺しきれず、上から振り下ろされた爪の勢いを受けて地面に叩き付けられた。



「かは…っ!?」


「ブラックっ!!」




 常人ではとても目で追いきれない程のスピードが出ていたにも関わらず、トカゲ女は正確に俺の位置を捕捉していた。



『おほほほほっ!この姿になったわたくしの動体視力と運動能力は常人どころか“魔法師”のそれを遥かにしのいでいますの!どれだけ速く移動しようが無駄ですわよ!』


「なるほど…、それは厄介だな…!」


『うふふ、そうでしょう?』



 トカゲ女は、自身の影によって暗くなった地面にめり込んで動けない状態の俺を足で踏み付けてきた。



「ぐぎゃぁあああああっ!?!?」


「ブラックっ!!」


『申し訳ありません、マサト様。ですが、これもマミ様のため、ひいてはお二人のためでもありますの』



 俺を足で踏み付けながら、上空にいるホワイトへ視線を向けたトカゲ女は、さらにこう続けた。



『さてマリ様、このまま戦いを続けるのであれば、マサト様をさらに苦しめてしまうことになります。

 大人しくわたくしと共に来ていただけるのでしたら、マサト様の無事はお約束いたしますわよ?』


「…わ、分かったわ、アナタに付いていく……、なんて言うわけないでしょっ!!『アクアストリーム』っ!!」



 ホワイトは敵を水の渦で閉じ込める魔法『アクアストリーム』をトカゲ女めがけて放った。



『そんな大技、本気のわたくしに当たるハズが無いでしょう!?』



 トカゲ女は地面を蹴って『アクアストリーム』を避けようとした。

 本来ならば、確かにホワイトの魔法など簡単に避けられたのだろう。

 しかし…、



『…っ!?な、う、動けな…っ!?』



 トカゲ女の両足は地面から伸びた黒い触手のような影によって地面に縫い付けられていた。



「『シャドゥバインド』、対象を対象の影にて拘束する闇の魔法だ、残念だったな…!」


『な…っ!?』



 そう、俺はただ地面に叩き付けられたわけではない。

 確実に『シャドゥバインド』を発動させるために、あえてトカゲ女ののだ。


 そうして動けなくなったトカゲ女を、ホワイトの放った『アクアストリーム』が捕らえ、水の渦の中に閉じ込めた。



『が…っ!?がぼぼぼぼっ!?』



 そのスキに俺は地面に『シャドゥボゥル』を放って穴を広げて、トカゲ女の足下から抜け出した。

 『シャドゥバインド』自体は俺が影の中にいなくとも維持出来るため、これでトカゲ女は完全に動けなくなったわけだ。


 だが、動けなくしただけでは心許こころもとない。

 確実にトカゲ女を無力化させるために、ホワイトはさらに魔法を放つ。



「『サンダーストーム』っ!!」



 今度は雷を帯びた竜巻がトカゲ女に襲いかかる。



『あばばばばばばばばばばっ!?!?』



 水の渦を通して、雷の直撃を受けたため、トカゲ女は全身しびれた状態になる。

 さらに『サンダーストーム』によって『アクアストリーム』が電気分解されて完全に蒸発したところへ、ホワイトは間髪入れずにトドメの魔法を放った。



「『ファイアエンドバースト』っ!!」


『…っ!?!?』



 水が電気分解され、水素と酸素で満ちた空間に炎が放たれるとどうなるか。

 答えは簡単、トカゲ女を中心に大爆発が起こり、トカゲ女は声も出せずに全身黒焦げとなって前のめりに倒れていった。

 ちなみに、大爆発が起こる直前に、遠くで待機していたユウとユイが事態を察してか、慌てて駆けつけてくれて、トカゲ女を中心に『ファイアシールド』を張ってくれたおかげで、周囲への被害はほとんど無かった。

 下手すると、俺も爆発に巻き込まれていたかもしれないので、ユウとユイがいてくれてマジで助かった……



 兎にも角にも、俺達は“魔女教”を名乗るトカゲ人間集団を捕らえることに成功したのだった。

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