第14話 デート②



 僕の体のサイズを細かく採寸した後、真島さんは何着か服を持ってきた。


「こちらはどうでしょう?」


 持ってきた服は、意外とシンプルなデザインのものだ。

  

 高い服はもっとなんか、ゴテゴテと装飾がついているイメージがあったけど、そうでもないようだ。

 

 この服だったら僕が普段来ている服と大して違わないような……。

 そう思ってしまうのは、僕がオシャレをよくわかっていないからなんだろう。


「はい。ではこちらで」


 服を手に取り、ツバキの元に行こうとするが。


「ご試着をお願いします」


 僕は試着室へと通された。

 

 まあ、試着するよね。

 たぶんそうなるってわかってたよ。


「サイズは赤羽様にあったものを選んでおりますが、万が一ということもありますので。サイズがあわないものはすぐに裾直しをさせていただきます」


「あ、いえ。そこまでしていただかなくても。少し長いとか短いだけなら別に気にしないので。裾まくったりすればいいですし」


「いいえ! そんなとんでもない。わたくし共スタッフのプライドにかけて、お客様の服はきっちりと本人にあったものにさせていただきます」


「そ、そうですか……。なら、お願いしますね」



 僕は試着室に入り、服を着替える。


 けっこう着心地はよかった。

 僕がいつも着ている服とは段違いである。


 さすが高い服だ。

 たぶん素材が良いんだろうな。


「着れましたよ」


 試着室の扉を開けると、そこには真島さんとツバキがいた。



「いい! シキ! かっこいいわ! 真島さん、これ貰うわね!」


「ありがとうございます」 


 ツバキは僕を一目見るなり目を輝かせてテンション高く声をあげる。

 真島さんはツバキの言葉に頭を下げていた。


「あ、うん。ええと。真島さんはわかるけどどうしてツバキもここに」


「あら。主人の私が眷属の着替えを見たいと思うのは普通じゃない?」


「普通なのか……?」


 まあ、眷属と主人の吸血鬼っていう関係性がもう既に普通じゃないから、深く考えても意味ない。


「ていうか、その」


 僕はチラリと真島さんを見る。

 この人のいる前で、吸血鬼とか眷属とかあんまり言わない方がいいんじゃないかな?


「ん、ああ。真島さん?」


 ツバキが僕の視線に気づく。


「彼はいいのよ。事情を知ってるから。私が吸血鬼っていうことも、貴方が私の眷属ってことも」


「知っていたんだ」


「当り前じゃない。私が所有する店なんだから、正体くらいしっているわ」


「もしかして真島さんも吸血鬼とか眷属だったりするんですか?」


「いえ。わたくしは事情を知っているだけの一般人です。先代のオーナーより吸血鬼のことを教えて頂き、店が夕凪様へ移譲されたのちもこの店で働かせていただいております」



 どうやら真島さんは普通の人らしい。

 普通の人でも吸血鬼の実在について知っているもんなんだな。


 もしかして、僕が知らなかっただけで吸血鬼のことを知っている人は意外と多い?



「吸血鬼の事情はどうでもいいわ。いま重要なのは、シキの服よ。シキはその服どう?」


「いいと思うよ。着心地もいいし、サイズもぴったりだし。うん。これでお願い」


「赤羽様。もう何着か服を選ばせていただいておりますので、よろしければそちらのご試着はいかがでしょうか」


「え? でももう1着買ったし、これでいいかなって」


「シキ。何を言っているの? たった1着でいいわけないじゃない。あと5着は最低でも買うわよ。なんなら、10着でも20着でも」


「え! ええ!? いやそんな、一回でそんなに買わないよ!」


「そう? でもせっかくだから買っといたら? 収納は家にたくさんあるし」


「いやそんな。それに買うといっても、お金払ってないからなんか申し訳ないし……」


「確かにそれもそうね。じゃあ普通に買いましょうか。真島さん。あとで請求書を送って」


「かしこまりました」


 

 うわ。

 なんか僕の一言で、事情が変わってしまったんだけど。


「……ちなみにこの服、いったいいくら?」


「上下合わせますと、50万円ほどかと」


「!?」



 文字通り桁が違ったんだけど。

 

 高くとも数万円とかそれくらいだと思っていたのに!


 なんだよ50万円って!

 家賃か!

 いや家賃でもそんなにしないよ!


「ふうん? まあそんなところね。じゃあシキ。他の着てみましょうか」


「え、ええ。そんなあっさり流せるの?」


 ツバキの金銭感覚がすごい。

 そう言えばツバキはあの大きなタワマンを所有しているくらいだから、すごいお金持ちなんだよな。


「あの、真島さん。他の服もそのくらいの値段しますか?」


「はい。当店の服は全て最高級のものを取り扱わせていただいておりますので」


「へ、へえ。そうなんですね……」


 まあ予想していたけどさ。

 これ以外の服も全て50万円とかそれくらいする高級品ということ。

 

 それを20着買うとなったら……合計1千万円。


 家か?

 家でも買うのか?

 家賃どころの騒ぎじゃないよ、もう。


「僕としてはこれくらいでいい……いやもうこれでも分不相応というか」


「値段を気にする必要はないわ。それでも気になっちゃうならこう考えなさい。私の眷属なら、それにふさわしい高質なものを身に着けること」


「ツバキの眷属にふさわしいもの」



 ……そう考えると、まあこういう高級品も必要、なのかな。 

 この大金持ちのお嬢様の主人の眷属が、みすぼらしい恰好をしているわけにもいかないし。

 


「さ、今日は10着は買うわよ。真島さん。もっといっぱい持ってきて」


「い、いや、ここにあるのでいいよ。うん」


 まあだからといって、さすがに500万円も使わせるのは心苦しい。


「そう? 謙虚なのね」


「これは謙虚というのだろうか」


 ここにある数着でも、合計数百万円はする買い物だし。

 


 数百万円の買い物を、同い年の女の子に支払ってもらう。


 うおお……。

 なんだか僕のヒモ度があがっている気がするぞ……。

 さすがにこうなってくると、お風呂洗っただけでヒモじゃないとか言い訳するのは無理があるよなあ。



 その後、数着ほど一応試着をしてサイズ感を確かめたり、僕に似合っているかツバキが確かめたり(何を着ても完成あげて喜んでいた)した後、服を購入した。


 最後に着ていた服を着つつそのまま外に出て、元着た服や他のかった服は贈ってもらうことになった。



「お金はどうするの? カードとか?」


「いいえ。後でメールで請求書が届くから、振り込みをして終わりよ。ここでは払わなくていいの」


「お金持ちって、その場では払わないんだ……」


 僕らのような庶民とはぜんぜん違うな。 




「服を買ってくれてありがとう」


 店を出ると、ツバキにお礼を言う。


「いいのよ。私の眷属なんだから、私がプレゼントするのは当たり前。欲しいものがあったら何でも言ってね?」


「その言葉に甘えたら、本格的にダメ人間になりそうで怖いな……」 


 今もそれに片足つっこんでるんじゃないか? 

 というツッコミはしないでほしい。


「服はいつもここで買ってるの?」


「ここは男性用の服を専門に扱っているところ。普段は女性用の店に行くか、デザイナーを呼んでるわ」


「デザイナーを呼ぶ……?」


 ツバキの口から、本日何度目かわからない聞きなれない言葉が聞こえてきた。

 また金持ちエピソードが出そうな気がする。


「ただそれだと届くまでに時間がかかるのよね。長いと数か月待たされたりもするし。シキもデザイナーを呼んで自分用の服を作ってみる? いまからだと、秋か冬は間に合うと思うけど」


「そ、それはまた今度にしておくよ」

 

 すごいな。

 金持ちって、家にデザイナーを呼ぶんだ。

 僕らのような庶民とは、考え方からしてぜんぜん違うな。




 

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