さざめく春、あなたと

春川 咲

第1話 交わらない毎日

大阪梅田の中心にあるセレクトショップ「フレームライン」で3人は働いていた。


高梨智香17歳高校2年生だが、放課後は必ずシフトに入る毎日。

明るく丁寧な接客でお客様からの指名も多いが、私生活では少し疲れた目をしている。

田中徹、同い年の17歳。母子家庭のため家計を助けるため高校には通わずフルタイムでアルバイトをしている。

大人びた目をしながらも、智香に柔らかく微笑む。

古谷一博、23歳の正社員。だらしなく、よくバックヤードでサボっているが、妙に要領がよくて怒られない。真面目な智香とは敬遠の仲で、顔を合わせれば口論ばかり。そんな毎日が続いていた。

「古谷さん、それタグの位置ズレてます」智香はディスプレイを組み直しながら、チラリと後ろを振り返った。

「細けいな。お客さんからタグなんて見えてねぇよ」「”見えないところにこそ気をくばる“」ってマネージャーが言ってましたよね?」

「おっ!お説教モード?どうした、彼氏とケンカでもした?」ぴくりと智香の眉が動く。関係ないでしょ。ていうか、古谷さんがちゃんとやってれば言わなくて済むんです。「いやいや、俺なりにやってるし、仕事に対しての情熱はー」

「ないでしょ」智香がバッサリと切り捨てた。

一博は苦笑いしながらハンガーを持ち直す。

「高梨さんてさ、ひとに厳しいよな。自分にも?」

「当然です。」

その言葉には、少しだけ棘があった。

一博は、その棘にふれぬように少しだけ声のトーンを落とした。「・・・疲れてんの、隠すの下手だよ。顔に出てる」

「は?」

「いや別に悪口じゃないって。ただ無理しすぎんなよ」

「・・・古谷さんに言われたくないです」

「ツンツンしてる方が高梨さんらしいか」

「は?何それ!」智香は商品整理に戻った。

一博はその背中を見ながら、タグの向きを直すとボソッと呟いた。

「・・・直すし、ちゃんと」


「キツく言いすぎたかな・・・まっいいか」と徹の横を通り過ぎた。

徹は二人のやりとりを見て、またかというような笑みを浮かべていた。。


ある日の閉店後の静かな店内に、カチカチとレジを弾く音だけが響いていた。

「……え?」

智香の声がわずかに上ずる。

「どうした?」

古谷がバッグヤードから顔を出す。

「今日の売上、合いません。1万円、足りない」

「は?」

「もう一回、締め直します。でも……たぶん、レジ点けたときからズレてたかも」

古谷が近づいてくると、智香はレシート束と金額表を突きつけた。

「今日レジ開けたの、古谷さんですよね?」

「……まあ、そうだけど。俺、ちゃんと金額確認したよ?」

「確認“したつもり”で間違えたんじゃないですか?」

「なんで、そう決めつけんの?」

一拍置いて、智香も声を荒げた。

「だって、古谷さんいつも適当じゃないですか! 商品の検品も、接客も!」

「お前、俺の全部見たわけじゃねぇだろ」

「でも信頼できるところ、ひとつもないです!」

一瞬、空気が凍った。

古谷は口を開きかけて、何も言えなくなった。

けれど、そのとき古谷はレジの履歴画面を指さした。

「……これ、夕方のレジ打ちで1万円の現金払いが“カード払い”になってる。多分それだ」

智香が画面を凝視する。その時間帯、レジを打っていたのは—— 一博。。。


「あっごめんごめん俺だったわ。じゃぁあとよろしく、ちょっと約束あるんで」

「智香は怒りながら私も約束あるんですけどー」でも彼女の声は一博には届かなかった。

そして無事仕事が終わって、智香は少し遅れて近くの焼肉屋で食事の約束をしている付き合って半年の恋人の翔太と待ち合わせ。「遅れてごめん、ちょっとトラブルあって・・・」

「いいよ」といって優しく笑ってくれた。

通された席はなんと先に帰った一博と女性のいる通路挟んだ隣の席だった。

気まずい空気が一瞬流れたが、一博は先ほどのことなど気にもせず「お疲れ〜」の後、お互いのパートナーの簡単な自己紹介をした。

お互いの話に聞き耳を立てることなく食事を済ませた2組。

偶然にも会計が一緒になり智香の後ろに一博が並んだ。

翔太は先に店の外へ。

「…お前、貢いでんのかよ」

皮肉めいた一博の言葉に、智香は目を伏せた。そういつも支払いは智香だった。

その夜、智香は「知ってほしくなかった自分」を一博に知られてなんだか嫌な気分になった。

翌日一博は智香に「あの男はやめた方がいいな」ボソッと呟いた。

それからしばらくして智香は翔太と別れた。厳密に言うとフラれたのだ。

落ち込んでる彼女の話をそばに居て聞いてくれたのは同僚の徹だった。
















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