第34話 鬼畜・母

「鬼畜変態?」


王妃様がうなずいた。


「数か月のことなのでと説明して、なんとかご納得いただきました」


「鬼畜は誤解ですよ? 僕、何もしていません。誘われてデートに一回ずつ行っただけです。そのあと、再度お誘いしなかったからって、散々な言われようでした。それに、変態はこの国に戻ってからで、変態というより、変装でしょう!」


「つまり、隣国においてもあなたは同じ格好だったと証言していただくことになったのです」


「えっ、ひどっ!」


「ええ。『氷の貴公子ファンクラブ』代表のエリザと『孤高の美貌を崇め奉る会』の副会長ジョゼフィンもそう考えられたようで、難色を示されました。さらに……」


まだ何かあるのだろうか。


「二、三人の令嬢方とデートに行ったのは事実です。あなただって、モテたかと思ったでしょう?」


「それはもちろん」


わずかに希望の光を見出して、フィリップは生き返った。非モテの烙印と変装は、過去の栄光があるからこそ耐えられるものなのだ。

そこ、否定されちゃうと、全否定になっちゃう。わが生涯に彼女なしになっちゃう。


「せっかくですから、自分がモテだと勘違い野郎で、身の程知らずの痛い変態ってことにしていただきましたの。嫌われていることが理解できない、セクハラ物件。そう言う噂を撒いてくださるそうです」


一瞬、言われていることが理解できなくて、フィリップは母を見つめた。母はやさしく微笑んだ。


「パース夫人は天才ですわ」


パース公爵夫人の発想か。何を提案してくれてんだ。フツフツと怒りが湧いた。


「すごく抵抗されたそうなのですが、エリック様の望まぬ結婚を避けるためならと泣く泣く飲んでくださったそうです。そんな痛い変態野郎と結婚する女性はいないでしょうから、さすがのヒルダ公爵令嬢も二の足を踏むでしょう」


釈然としない。イケメンの自覚はさほどなかったが、フツメンの認識くらいならあった。

人権を踏みにじられた気分である。


「あまりに彼女たちが献身的なのと哀れで、パース夫人は、代わりに代償を約束したので、そこのところは後日飲んでくださいね。お金は嫌だそうですの。推しを売るような気がするんですって」


「よかったわね、フィリップ」


アレクサンドラ殿下から声を掛けられて、フィリップは涙目で姉を見つめた。姉、楽しそう。


「さっそく、噂を撒くようお願いして、彼女たちは先週から学園の生徒になっています。必要な経費はあなたが払うのですよ?」


「え?」


依頼済み? 聞いてないよ? しかも経費って何?


「自由の獲得にはカネと力が必要なんだとさっき力説していたではありませんか。ヒルダ嬢との結婚を避けて、ハンナ嬢と結婚したかったら、泣きながら、あなたがいっぱしの男前気取りで女子に迫って嫌われまくった前歴を捏造してくださる方々の宿泊費や授業料くらいの負担なさい。後で、請求書を送ります」


推しを売るようでお金は嫌って言ってなかった? それって、結局、お金がかかるんじゃないの??






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