第39話 アレクサンドラ殿下との話

「その点、ハンナ、あなたは良かったわ。フィリップに近付きたいだなんて、全く思わなかったでしょう?」


アレクサンドラ殿下に聞かれて、ハンナはここが頑張りどころだと、ブンブンと頭を振って力いっぱい否定した。

なぜか後ろの護衛騎士の鎧がカタカタ言い出したが、今日の護衛騎士は騒音型らしいので、気にしないことにした。


「全く。全然。つゆほども。私か心配だったのは、高貴な方々に失礼があってはならないと言うことだけでした」


全否定しておく。


「そうよね。あなたは控えめで一生懸命でした。それなのに、外国語しかしゃべらない変な騎士と無理やりデートさせて悪かったわ」


外国語しか話さないのは変だったが、極上の男だった。

セクハラだけど、かなり距離を詰めてきてるけど、お食事から始まって、お芝居、ショッピングと一応手順は踏んでいる。

逆に、だからこそ、セクハラ困る。

簡単に流されそう! しかも見た目が極上なのだ。とても心惹かれる。あの人はやさしい。


「なんでも、ダンスパーティにエスコートしたいと申し出されているのですって? トンプソン先生から聞きました」


アレクサンドラ殿下がわざとらしくため息をついた。


「でも、この状況だと、ソロ参加しか方法はないわね」


ハンナは悲しくなった。護衛騎士を好きなのだとしても……それはハンナ自身認めにくい感情だったけれど、そんなことを公言する訳にはいかない。

ダンスパーティなんか意味がない。


「参加しなくていいです」


ハンナが言うと、アレクサンドラ殿下より、護衛騎士の鎧の方が先にガタガタでかい音を立て始めた。


「ハウス!」


アレクサンドラ殿下は振り向きもせず、一言放った。

母の愛犬のトイプーは、母の一言ですぐに自分の居場所に戻ったものだ。

しかし、護衛騎士は音をたてるのは止めたが、動かなくなった。


「聞こえなかったの? ハウス! 詰め所にお戻りなさい。これから、ハンナに聞きたいことがありますから」


アレクサンドラ殿下が、合図すると、別の護衛騎士団が、物陰からわらわら出てきて、問題の護衛騎士をがっちりと捕まえると有無を言わせず、部屋の外に出してしまった。


「さあ、これで静かに話ができるわ。ほんとにあの護衛騎士ったら、やかましいったらありゃしない」


ハンナは護衛騎士のことはあまり考えていなかった。エリック様のことを考えていた。でもエリック様のことは考えてはダメ。何も進まないのだから。

だから自分の婚約のことを考えなくちゃ。

アレクサンドラ殿下が証言をしてくださると言うなら、ハンナの有責の婚約破棄はなくなるだろう。


でも、その後をどうしたらいいかわからなかった。


「ねえ、ハンナ、エリック様のことは嫌いだった?」


アレクサンドラ殿下はやさしく尋ねた。


「えっ。あの、その、そういう訳ではありません。殿下に頼まれましたので、好きも嫌いもありません」


「エリックはあなたのこと、好きみたいだけど」


ハンナは見る間に真っ赤になった。


「でも、エリックはただの護衛騎士。あんなのと結婚したら、これまでのぜいたくな生活は続けられなくなるわ。それでもいい?」


「それはどういう意味でしょう?」


「ちょうどよく婚約破棄がされた。まあ、おそらく白紙になると思うけど。そして、今フィリップ殿下は評判が出来るだけ悪いので、ヒルダ嬢の父君を含めて、うまくすると自由になったジョージとヒルダ嬢は婚約するかもしれないわ。それでもかまわない?」


「それは構いません」


ジョージなんかと結婚しても不幸になる。評判が悪いって意味が解らないけど。


「かたやジョージは大公爵家の令嬢の入り婿に入り、一方で何の罪もないあなたは、むしろ陥れられて侯爵夫人になれず、一介の護衛騎士の妻になるだけよ?」


エリック様がどんな方なのかよくわからない。あの方は、護衛騎士なのかしら?

それだけではないような気がする。


「アレクサンドラ様。私はエリック様がただの護衛騎士ではないような気がするのです。それは最初からそう感じていました」


「あら」


アレクサンドラ様は驚いた様子だった。


「顔がってこと?」


「いいえ。ずいぶんおきれいな顔立ちの方だなって思いましたけれど、違うんです。あの方は、それだけではない不思議な力みたいなものを感じるのです。護衛騎士のままでは、きっといらっしゃらないと思います」


アレクサンドラ殿下は、真剣にハンナの話を聞いていた。

サファイヤのような目がキラキラしていた。


「あの方がどんな地位についてもその仕事をしているところが想像つかないのです。不思議ですわ」


「それなら、別の質問。あなたはエリックと一緒にいたいですか?」


ハンナは黙った。


「できないです」


「どうして?」


「だって、私には婚約者がいます。私は男の方を好きになったり、その方のことを考えたりすることはできないのです」




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