青い海の絵
玉大福
第1話
ずっと前から知っていました。
私分からないふりをしていただけなのです。
今、貴方のしなやかな黒髪に絡む光の粒を見てようやく観念致しました。貴方の背には青い影が落ちています。
私を愛する貴方ですから、これを言えばきっと泣くでしょう。でも私、あなたの自由さを愛しているの。
貴方がこの海を愛するのと同じように私はあなたを愛しているのです。
貴方が初めて私をこの船に乗せてから、この海は私の故郷になりました。
鱗のような水面にオールを入れると、水の涼やかな音色が私を包んでくれます。船の揺れはまるでゆりかごで、お母様の腕の中で眠る夢を見ます。
私と貴方だけの静かな場所。海は私に安らぎを与えてくれのです。
貴方は船を漕ぐときいつも汗をかいていましたね。
揃いの帽子も暑いといって中々被ってくださらないから、貴方の肌は斑模様です。私の友人はあなたの事を漁師の子供だと思っていたそうですよ。貴方の隣に並ぶと、私の白い肌がよく映えると褒めてくださいました。お義母さまに頂いた帽子のおかげでしょうか。 私の肌は透き通るように白いのです。
稀に、屋根の下から貴方を見ていると、肌のしみなんて気にせずにお日様をめいいっぱい浴びたくなる時があります。
でも、それはできません。
この海の美しさと比べたら、私のお気に入りのドレスも見劣りしてしまうでしょうから。それに、この帽子も古くなりました。光の下ではほつれが目立ってしまうでしょう。
私は貴方の隣には立てません。
青い影から私は出られないのです。
同じ青なら、貴方はこの海の輝きのほうがずっと良く似合う。
だから私、観念致しました。
貴方がオールを大きく引く。船がゆっくりと右へ曲がる。
そのまま船は大きく旋回し、貴方の右頬を光が照らした。
安らぎの時間は終わり。私たちは来た道を通って帰路へ着く。
私は貴方の名を口にした。
光の中の貴方がこちらを振り返る。
ねえ、自由の貴方。
最後にお願いがあるのです。
そのコートと帽子を捨ててください。
重くて持ち上げられない錨は捨ててしまいなさい。
もっと、もっと遠くへ、私の手が届かない場所へ、貴方は自由に、好きに、貴方を生きて。
そうしてたまに青い影に私を思い出して。
青い海の絵 玉大福 @omochikun
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