ふるい記憶
あんころもち
おひるの共犯者
こうちゃんが箸を折った。折ったというべきか、嚙みちぎったというべきか。とにかく、私が顔を上げてこうちゃんの方を向いたときには、もうすでに茶色いプラスティック製の箸は長い部分と短い部分に分かれていたのだ。
大阪のビル街にある保育園。窓から見える空は、いつもいびつな形をしていた。それでも私は、この窓から見える景色がこの世界のぜんぶだと思っていたし、小さな空をとても大きなものだと感じていた。窓から太陽の光が差し込んで、おひるごはんが並んだ机をあたたかく照らしていた。
こうちゃんは折れた箸の断面と断面をこすりあわせていた。
「折れたん?」
私が聞くと、こうちゃんは頷いた。
「先生に言わんといてな」
こうちゃんの願いを、私は聞き入れた。晴れて共犯者になった私は、なんだか嬉しくなった。胸のあたりになにかがうごめく感じがして、くすぐったかった。
結局、見回りに来た先生がこうちゃんの折れた箸を発見した。私は給食室へと連行されていく仲間を、たまごスープを飲みながら見送った。
ふるい記憶 あんころもち @616soda_moji
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