第40話 レンヤ達の敗戦

「どうなっているんだ? これは……」


 赤黒い肌をした漁業ギルドの男性職員が小舟から降りて、氷ついた海面に立つ。レンヤ達の戻りが遅いので様子を見に来たのだ。


 職員は冷気に肩を振るわせながら、白い小山――巨大クラーケンの死体――に向けて歩き始める。


「あのモンスター……死んでるよな? てことは、冒険者達が倒したのか?」


 白い息を吐きながら、職員はつぶやく。自分に言い聞かせるように。


「海面を凍らせたから、戻ってこれなくなったってことか?」


 見渡す限り凍り付いた海面。その異常な光景に、職員は改めて首を捻る。


「ん?」


 物音を聞き、職員は足を止める。そして耳を澄ます。


「何か聞こえる……」


 再び職員は歩き始める。音のする方に向けて。


「……ロレロ……」

「人の声……なのか?」


 職員は怪訝そうな顔をして、先を急ぐ。声がはっきり聞こえるようになった。


「レロレロレロレロ……」

「おい、大丈夫か!?」


 凍り付いた海面に横たわっていたのは灰色の髪をした男、A級冒険者のレンヤだった。激しい戦いがあったことを物語るように、その身を包む衣服はボロボロになっている。


 職員はレンヤの横に膝を突き、肩を揺する。


「おい、どうした……!?」

「レロレロレロレロ……」


 職員の呼びかけにも答えず、レンヤは恍惚とした表情をしたまレロレロと舌を動かす。


「レロレロレロレロ……」

「仕方がないな」


 職員は右手の拳を硬く握り、レンヤの顔に向かって振り下ろす。


「レロレゴッ! ……うぅ、ここは……?」


 やっと正気を取り戻したレンヤは頬を摩りながら、身体を起こす。


「海の上だよ。凍らせたのはお前達か?」


 漁業ギルドの職員は凍り付いたままの海面をコンコンと叩きながら尋ねた。


「あぁ。俺が魔法で凍らせた」

「……とんでもねえやつだな。海ごと凍らせて、クラーケンを倒してしまうなんて。冒険者ギルドには俺から報告しておく。依頼は達成ってな」


 職員はすっかり動かなくなったクラーケンの巨体を眺めながら言う。


「いや、クラーケンを倒したのは俺では……」

「あぁ、他の仲間と協力して倒したってことか。その辺は上手く報酬を分け合ってくれ」

「いや――」

「そんなことより! この海、どうにかしてくれよな? こんなカチコチに凍ったままだと、危なくて船が出せやしない」


 職員は立ち上がり、足で凍てつく海面を踏み鳴らす。迷惑であることを強くアピールするように。


「すまない……。火魔法で温めて融かす……」

「たのむぜ! 俺はギルドに戻るからな! 夕方までには元通りにしてくれよ!」


 漁業ギルドの職員は言いたいことを全て吐き出し、自分の乗ってきた小舟に引き返していった。残されたレンヤは地面に転がったままレロレロを繰り返すトマージ達を正気に戻す。


 そして、せっせと凍った海を融かす作業に打ち込むのだった。



#



【第九十回 冒険者ギルド会議 議事録】


ギルド職員1

⇒レンヤのクラーケン討伐の件だが、まずいことになった……。


ギルド職員2

⇒「レンヤとトマージが協力して魔王化寸前のクラーケンを討伐した」と、依頼元の漁業ギルドから報告があったと聞いている。何か問題でも?


ギルド職員3

⇒レンヤとトマージに聞き取りをした結果、クラーケンを倒したのは別の人物であることが判明した……。


ギルド職員4

⇒何……!? もう「A級冒険者のレンヤがクラーケンを討伐」と王国中の冒険者ギルドに通達を出してしまったぞ……!


ギルド職員5

⇒クラーケンを倒したのは誰なんだ?


ギルド職員6

⇒フード付きの黒いローブを着た謎の男だ。レンヤ、トマージともに顔は見ていないらしい。本人は二人に『試す者』と名乗ったそうだ。


ギルド職員7

⇒『試す者』。一体、何を試すというのだ?


ギルド職員8

⇒「力をみせてみろ」と。レンヤの実力を測ったのだろう。


ギルド職員9

⇒レンヤ曰く、『試す者』はクラーケンの死体を操って戦ったそうだ。圧倒的な力で、レンヤやトマージをねじ伏せたと聞いている。


ギルド職員10

⇒……!? 死霊術 だと……!? もう現代に使い手はいない筈では?


ギルド職員11

⇒しかし、死体を操るのは死霊術以外には考えられないだろう?


ギルド職員12

⇒問題は『試す男』が王国と冒険者ギルドにとって敵なのか、味方なのか。だ。


ギルド職員13

⇒レンヤの力を試したということは、少なくとも敵ではないだろう。


ギルド職員14

⇒レンヤ達の精神状態が心配だな


ギルド職員15

⇒それは心配ない。上には上がいることを知り、これまで以上に修練に励むようになったそうだ。


ギルド職員16

⇒『試す者』が王国と冒険者ギルドに牙を向かなければいいが……。



#



【第百三十五回 地下ギルド会議 議事録】


ギルド組合員1

⇒レロヤ爆誕のお知らせ……!!


ギルド組合員2

⇒えっ、どゆこと!?!?!?


ギルド組合員3

⇒港町セレリオンの沖で「レロレロレロレロ……」と酩酊状態のレンヤ君を漁業ギルドの職員が発見したらしい。その近くには巨大化したクラーケンの死体があったことから、「レンヤとトマージが討伐した」と報告がなされたそうだ。


ギルド組合員4

⇒それ絶対、ロジェの仕業じゃん……!!


ギルド組合員5

⇒ロジェ、俺のところに「イカの切り身」を大量に卸していったぞ……。魔王化直前のクラーケンの肉だったのか……。


ギルド組合員6

⇒えっ!? それ客に出したの!?


ギルド組合員7

⇒試しに少し食べたら美味かったんだ……


ギルド組合員8

⇒魔王化直前のモンスターの肉を人に食わすなよwwww


ギルド組合員9

⇒絶対腹下すわ~


ギルド組合員10

⇒てか、ロジェは一体、何やったの?


ギルド組合員11

⇒巨大クラーケンを倒したところにレンヤとトマージが来たから、正体を隠したまま稽古つけてやったらしい。


ギルド組合員12

⇒謎の黒幕ムーブするなよwwww


ギルド組合員13

⇒ロジェもまだまだ子供だな~


ギルド組合員14

⇒あれじゃない? なんだかんだで、レンヤのことが気になってたんでしょ。


ギルド組合員15

⇒まさかロジェがエルルちゃん以外に興味を持つとは……。感慨深い


ギルド組合員16

⇒てか、帝国がもうレンヤのことを捕捉したみたいだぞ。


ギルド組合員17

⇒冒険者ギルドが大々的にレンヤの成果をアピールしてたからなぁ


ギルド組合員18

⇒帝国は第二皇子が必死に皇位を狙ってるからなぁ……。またなんかやってきそ~


ギルド組合員19

⇒なんかって、何を? この前失敗したばかりだから、しばらくはないんじゃない?


ギルド組合員20

⇒大掛かりなのはないだろーけど、邪神堕ちした人間をよこすぐらいはやってくるんじゃない?


ギルド組合員21

⇒まぁ、それはあるかも


ギルド組合員22

⇒そんなことよりロジェがエルルちゃんにクラーケンの触腕から作ったお風呂セットを貢いでるぞwwww


ギルド組合員23

⇒えっ、なにそれ?


ギルド組合員24

⇒今、配信でやってたwwww 「浴槽に入れて魔力を籠めると、自由にお湯を操れます!」だってwwww それ貰っても微妙だろwwww


ギルド組合員25

⇒エルルちゃん困惑顔wwww


ギルド組合員26

⇒もうちょっと役に立つモノを贈れよwwww


ギルド組合員27

⇒パオラ団長「通りすがりの冒険者さんも疲れているのね……」


ギルド組合員28

⇒カリー副団長「お湯を操作して何が楽しいんだ?」


ギルド組合員29

⇒いや、まぁ使い方次第でしょ。そもそも浴場で使う必要ないし。河とか海での戦闘では役にたつっしょ。


ギルド組合員30

⇒たしかに


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