第47話 制空圏

 会場の空気は凍りついていた。

 観客の歓声もなく、沈黙だけが重くのしかかる。

 舞台の中央、望月と剛が、一定の距離を置いて向き合う。


 双方とも、刀は鞘に納めたまま。


 だが、すでに勝負は始まっていた。


 “制空圏”——それは、ただの間合いではない。

 己の“空”を支配し、相手の“空”を塗り潰すほどの、気の圧力。

 姿勢、視線、呼吸、すべてを含んだ、見えぬ圧力のぶつかり合い。


 望月は一歩も動かない。ただそこに“在る”だけで、空間をねじ伏せていた。


 剛もまた、静かに立つ。その場を離れず、意志だけで“在り続ける”。


 ふたつの制空圏が、徐々にせり出し、重なり合おうとしていた。


 剛の額に、汗がにじんだ。


 制空圏が触れたとき、それは“刃の交換”と同義。

 誰かが動く、ではない。

 “空”が侵された側の身体が、反応してしまうのだ。


 先に動いた時点で、終わる。


 剛は感じていた。

 望月の制空圏は、研ぎ澄まされた殺意の流れ。

 ただ居るだけで、命を削り取る刃のようだった。


 対して、自分の“空”はどうか。

 斬らずに、立つ。その在り方が、果たして相手の空を打ち返せるか。


 (触れたら、死ぬ)


 そう確信するほどの“空間”が、目に見えぬ刃となってぶつかり合う。


 いま、この瞬間。

 すでに——戦いは始まっていた。

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