第33話 意なき刃
三影は動かなかった。いや、動いていなかったように見えた。
だが剛の中に、わずかな違和を知らせる“波”が走った。
空気が揺れていないのに、気配だけが変わった。
それは“間”でも“殺気”でもない。もっと希薄で、輪郭のない気の揺らぎ。
次の瞬間、剛は咄嗟に左足を引いた。直感ではない。もはや反応ですらない。
そこに“意”がなかった。
三影の身体が滑るように前へ出ていた。
打つでも、刺すでも、叩くでもない。 動きは曖昧で、まるで偶然の重力に任せたようだった。
だが確かにそこに“攻撃”はあった。
“意なき攻撃”―― それは、先の先を取る者だけが成せる技。
通常、攻撃とは意図である。意図があるから、気が動き、相手に読まれる。
だが三影のその動きには、“読む”対象がなかった。
剛は驚愕していた。
いまの自分は、ようやく“先の先”に手をかけ始めたところだ。
だが、三影はすでにそれを“通り過ぎた者”だった。
その動きには、何もなかった。
しかし、だからこそ恐ろしかった。
剛の肩に、わずかに冷たい汗が伝う。
ここから先は、構えていても遅い。
自分自身の“意”すらも消す場所へ――入らなければならない。
剛は呼吸を整え、ほんのわずかに背筋を緩めた。
“それ”が動くかどうかではない。
“それ”が動けるだけの空間に、自分が在れるかどうか。
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