おっさん、ダンジョンへ行く ~アラフォーおじさん(独身)、少年の日に憧れた冒険者になる~
清川 遥
番外編 おっさんと、周囲の人々
第1話 三雲 霞の場合
おっさんが周囲からどう見られているか番外編を書いてみました。
不定期更新予定です。また、本編出ないので文章も変更を試みています。
少しでも、皆様に楽しんでいただけたら嬉しいです。
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彼を初めて見た時に、三雲霞は思った。
普通そうなおじさんでよかった、と。後に、この印象が第一印象だけだと彼女は理解することになるが、この時はそう思っていた。実際、彼もまだ普通のハラスメントで訴えられることに震える善良なおじさん会社員だったのだ。
Aランク冒険者である霞は、見た目が良い。クールな外見だが、人当たりも良く、トラブルも少ない優等生的な冒険者である。だから、セレブ向けの二週間付きっ切りで指導するデビュープランの指導役に抜擢されたのだ。ダンジョン協会としても、スポンサーになってくれそうな人たちの機嫌を損ねたくないので実績と実力があり、人柄もいい高ランク冒険者を指導役に配置している。
彼女はこうした業務を既に数回こなしているため、デビュープランの進行自体は不安が無い。だが、男を担当するときは面倒な事が多いのである。大体、外見で舐められる。細身ですらりとした彼女は、とてもでないが強そうに見えない。
強そうでない外見の彼女に対して強く出る残念な男性は一定数存在する。多くは金を持っていたり、自分に自信があり過ぎたりする男性だ。
なぜ、高ランクの冒険者と事前に通達を受けているのに無駄に強い態度を取りたがるのかは不明だが、きっと彼らのような人々は脳に栄養が行き届いていないのだと思われる。そのような可哀そうな男性達も、ダンジョンに入ってからは態度を改めるので霞の忍耐力はかなり鍛えられることとなった。
彼女が担当することになった一般枠の平山 雄一郎という男性は、大人しかった。彼女が指示したことをきっちり守り、座学もきっちり学んでくれた。彼は手のかからない男性であった。霞は、彼が模範的な研修生であるという印象を持った。本当、すべての男性がこんな感じであれば、ストレスが少ない楽な仕事なのだがとも思った。
手書きのメモをして、この研修で手に入れられるものはすべて持ち帰るという貪欲さも評価が高いポイントだ。ただ、心配なのは気合十分過ぎて空回ってしまわないかである。
研修が進み、ダンジョンに入ったが彼女の心配は杞憂に終わった。平山は、特に問題なくスライムを討伐したからだ。引き続き、ゴブリン討伐の際に少しもたつきはしたが、初めてダンジョンに入ったとは思えない思い切りの良さで、平山はゴブリンを討伐していた。
思った以上に、冒険者に適性のある平山に霞は育て甲斐を感じ始めていたのだった。躊躇なく暴力を振るえるのはダンジョンを探索するのに必要な資質だからだ。魔物の中には人型のタイプも居るし、高位のサキュバスなんかは見た目がほぼ人と変わらない。
そんな魔物を相手に、暴力を振るうことをためらっていては死ぬことだってある。だから、躊躇なく、暴力を振るえるのは優れた資質である。霞は平山と話していて、言動は大人しく、女性と話慣れていない事を察していた。
だから、あまり話しかけ過ぎないように気を付けたし、距離の取り方も気を遣った。自分の容姿は、女性慣れしていない人を緊張させることがあると過去に学んでいたからだ。
その後も研修は順調に進んだが、冒険者カードの登録の時に事件が起こった。
平山の職業が大魔法使いであることが判明したことまでは良かった。彼が持っていたスキルが問題だった。〈童貞紳士〉という珍しいスキルを持っていたことが無慈悲に明かされたからだ。
気まずいが、スキルの事に触れないわけもいかないので、さらりと流した。平山の様子を見る限り、彼女の対応が間違っていなかったことが分かって安心した。
本当、いきなり危険な情報をぶち込んでこないで欲しいと心底彼女は思った。
冒険者カードの登録機と簡易鑑定装置が悪いわけではなかったが。その後は、闇と風の二属性持ちだったから、闇属性の説明に時間を割いた。闇魔法は、かなり扱いが難しいし、非合法な使い方もできる属性だからだ。そのことも、説明をして平山はきっちりメモを取っていた。
やはり、彼は教えやすい研修生だと改めて思った。
それからも研修が進んで行った。魔力による身体強化もこちらの予想をはるかに上回る速さで周到していた。特に風魔法を100メートル近く離れたところからゴブリンに当てたのには驚かされた。
あれは、冒険に慣れた高位冒険者が行うような技術だ。それを気軽に行うとは、平山の冒険者としての資質が高いのが分かる。こんな人間が、普段は会社で普通に事務作業をしているとは、世の中分からないものだ。
ダンジョンで行う戦闘の際に、研修生好みの装備を身に付けるときがあり平山は不人気の装備を手に取っていた。どこかで見たことのある装備品だが、どこで見たのかが思い出せなかった。
ただ、自分の夫のセンスに似ているような気がした。あの人は、どこか古風な装備品を作るのを好むからだ。どうも、平山もそうしたセンスの持ち主らしい。ご機嫌で部屋から出てきた彼は、まるで北欧のバイキングのような格好をしていた。
特に杖型のモーニングスターを持っている様子は、とても魔法職には見えなかったけれど、霞は黙っていた。ダンジョンに入り、戦闘講習をしたが平山は絶好調だった。風魔法の改造も手早く行っていた。
こんな人が一般社会に埋もれているなんて、本当に訳が分からないものだ。
ダンジョンに入る実戦研修は平山の性に合っているらしく、ある時は奇声を上げながらゴブリン達に突撃していった。正直、彼のストレスの溜まり具合が心配になってしまった。そのうち、自分で解決するのだろうが、魔物相手にストレスを発散するというのは本当に会社員だったのかが疑わしくなる。
この日は、研修が終わった後に力の振るい方について自分が思っていることを平山に述べた。彼は、真摯にこちらの話を聞いていたように霞は感じた。
その後も、霞と平山はダンジョンで戦い続けていき最終日にはボスも討伐した。ボスの討伐は平山が一人で行ったが、彼女は彼なら問題無いと確信していた。自分が後詰にいる必要があったのかも疑わしい程、平山は冒険者としての資質を急速に開花させていったからだ。
そこは、指導役として自分が後詰にいたからこそ、彼は力を出し切れたのだと思うことにした。そして、思わぬ拾い物をすることになった。ダンジョンの最速攻略をしたのは初めての事であり、霞は久しぶりにスキルを入手した。
〈アタランテの走法〉という見たことのないスキルだった。歴史に名を刻む英雄の名を冠したスキルは珍しいものだ。効果は、走ることに関わるスキルの効果が二倍になることだったから、地味にありがたいスキルだった。
その夜、施設長である真島に業務報告をした際に、霞は彼が将来有望な冒険者であることを告げた。彼女のレポートを読んでいた、真島もそれに同意した。
とても有意義な二週間だったと霞は思った。久しぶりに研修で人を育てたが、やはり才能がある人を育てるのは楽しいものだった。
その後も、霞は彼との縁が無くなるのを惜しみ、自分の普段使いのDフォンのアドレスを教えた。冒険者として、彼との縁は持っておいた方が良いと判断したからだ。その後も、彼は冒険を順調に進めていった。
ただ、彼女が考えていた以上に彼は問題児だったことも後に分かったが。
本当、研修で面倒を見ていた時はあれほどの破天荒な問題児だとは思わなかった。こちらの想像を軽く超えてくるあたりが、面白いとも思った。自分が冒険者であり、彼の担当をする協会職員でなくてよかったとも思ったけれど。担当する職員であった場合は、胃に負担がかかりそうな暴れっぷりだと思ったのだ。
三雲 霞にとっては、平山 雄一郎という冒険者はびっくり箱のような冒険者だった。外から見ている分には退屈しないで楽しめるのは間違いない。今後も見守っていこうと思った。適切な距離を守り、離れて見る分には、面白い冒険者だからだ。
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