貞操逆転世界で好き放題

アイディンボー

入院編

第1話 1.搾精検査

「はーい、今日は搾精検査の日です、皆さんの将来を決める大切な検査ですよー」

 見目の良い女性教師が良く通る声ながらも優しさを込めて伝えてはいるが、肝心の子供達は無駄話に余念が無い。



「ようカイト、俺達高校に行けばやりたい放題出来るんだってな」


「サトシ、やりたい放題じゃないよ、子供を作らないといけないんだぜ」


「子供の作り方知っているだろ、気に入った子がいれば好きに出来るなんて最高じゃん」


「なぁスタリオン学園って孕ませ校って呼ばれているんだって、知っていたか?」


 男児学校の授業は学科が半分で残りが体育、テニス、乗馬、クライミング、ダンス、アルティメット、ラクロス、スイミング、インラインスケート、パルクール、冬にはスノボ……


 選手を目指す程ストイックではないが、適度な運動で鍛えられた中学生達は皆締まった体躯。


 14歳の男が集まると知性と分別のレベルがグングン下がる、もはや猿レベルにまで落ちた生徒達は無人運転バスに乗り込まされる、

 緑の芝生がどこまでも広がり、校舎や体育館が余裕をもって建てられている、贅沢な学舎、


「シンジ、アルティメットのグラウンドだぜ」


「カイトお得意のジャンピングキャッチはもう見られないけどな」


「懐かしいな、高校にもアルティメットチームあるかな?」


 授業以外でもクラブ活動は盛ん、カイトは学内アルティメットチーム“ブロンコス”で汗を流していたものだ、ちなみにアルティメットとはディスクを飛ばして相手陣に攻め込むフリスビーを使ったハンドボールの様なスポーツ、


「高校行ったら部活よりも楽しい事しようぜ……」


 お猿さん達を乗せた無人バスはスタイリッシュな建物の前に停まると、生徒達は一斉に入口に向かって行く、これから起こる事のメタファーの様に。


 ▽


 若さが有り余っている14歳、手練の検査官にかかり、あっという間に白い欲望を吐き出す。


「はい、みんなー座って、ショウヤ君もリョウ君も椅子に座ってー」

 白衣を着た年配の女性がやって来るとお猿さん達も静かになった。

「それでは搾精検査の結果を報告致します」


「天塩シンジ君、スタリオン学園」

「石狩ショウヤ君、スタリオン学園」

「最上リョウ君、スタリオン学園」

   ……

   ……

   ……

 次々と名前が呼ばれて行き、小さく喜びを表す少年達、


「それでは最後に荒川カイト君、一般高校、以上です」


 ▽


「バスは満員でもう乗れないの、君は歩いて帰って」


 いつもはニコニコして、生徒の我儘は何でも聞いてくれる担任の先生は氷の女になって冷酷に言い放つ、


 ▽


 一時間以上かけて帰って来たら玄関前にボロボロになったスクールバッグが落ちていた、みんなに踏みつけられたのだろう、中身が散乱している。


「なんだ、君帰って来たの、もう明日から登校して来ないでね」


「 … 先生  … 」


「馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ、この種なしが、よくもわたしの経歴に泥塗ってくれたわね」


「  ……  」


「そこの種なし、出口は向こうよ、校内をウロウロしないで!」


「部室に行って私物を持って帰ります」


 ▽


 アルティメットチームの部屋に行ったら、後輩達からは羽虫が来たかのような対応、


「種なしは来ないでください」


「そうだよ、伝染したらどうするんだよ」


「荷物を取りに来ただけなんだ」

 いつも慕ってくれていた後輩達はシューズやウェアを放り投げて来た。


 わずか半日で自分の居場所を失った思春期の少年、

“荒川カイト”

 彼に残された解決方法はそれ程多くない。



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 今夜もコンビニのバイト、叔父が経営している店で中学の時から何百時間も働いて来たけど、一円の給料ももらっていない、バイト代の高い深夜の時間帯にワンオペが多い。

“家族は助け合うのが当然だろう”


 どの口が言うのかと言いたくなる、両親が事故死したのは4歳の時、正直殆ど記憶にない、その後叔父の家に引き取られたが、とんでもない食わせ物で、俺の物のはずの親の死亡保険や慰謝料をかすめ取った、更に今日は学資保険も食い潰していた事が発覚、抗議をしたがしこたま殴られただけだ、あいつ元相撲部だけあってガタイが良いうえに躊躇が無い。

 もう大学は諦めた、とにかく早く18になってあの家を出て行ってやる。


 深夜二時、さっきから頭痛がして仕方が無い、だんだん酷くなっていないか? ついにはカウンターの中に座り込んでしまい、そのままうつ伏せに倒れ込む、

 医療的知見では養父に殴られた時に頭を打ち、脳の血管が切れ、血腫がジワジワと広がって行っている、


 遂には意識を手放した。

 キレイな三日月の夜に倒れ込んだ少年、名札には、

“新川カイト”

 の文字。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽二人のアラカワ・カイト▽▽▽▽▽▽▽▽


 男女のバランスが崩れ、男が希少となり、貴族の様な生活を送っている、世界で15歳の“荒川”カイトは、無精子症を診断され、悲観して自ら命を断った。

 家族の発見が早かったので、一命は取り留めたが、昏睡状態。


 現代日本で養父から搾取されていた不遇な少年“新川”カイト、毒養父の暴力で命を落とす。



 さまよっていた“新川”カイトの魂は、三日月に導かれ、逆転世界に辿り着き、

“荒川”カイトを依り代とした。







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