マジで入れ替わってる!? 優等生のフリ、無理だってば! ~クールなあの子と私の((超))ヒミツな一日~
猫森ぽろん
第1話
「ヤバいヤバい! 遅刻するーっ!」
あたし、朝倉ハナは、トーストを口に咥えたまま猛ダッシュしていた。元気と運動神経には自信があるけど、朝はどうも苦手。おまけに今日は、一限目がいちばん怖い鬼教師、古文の小テストがある日だ。絶対に遅刻できない!
「おはよーハナ! 今日もギリだね!」
「おはよー! って、喋ってる暇ないって!」
校門前で、同じバスケ部の友達に声をかけられるが、手を振るだけで駆け抜ける。目指すは教室! ……のはずだったんだけど。
ドサッ!
「いってぇ……!」
曲がり角で、誰かに思いっきりぶつかってしまった。勢い余って、二人して派手に尻もちをつく。咥えていたトーストも、無残に地面に転がった。
「あー!あたし私の朝ごはん……って、ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
慌てて顔を上げると、そこには、ぶつかった相手―――同じクラスの、白石シオリさんが、静かにあたしを見上げていた。
白石シオリさん。学年トップの成績を誇る、クールビューティーな優等生。長い黒髪がサラサラと流れ、切れ長の瞳はいつも冷静沈着。私とは、生まれた星が違うんじゃないかってくらい、正反対のタイプだ。クラスでも、いつも一人で静かに本を読んでいるか、難しい顔でノートを取っているかで、あたしみたいな騒がしいグループとはほとんど接点がない。まさに、高嶺の花。
「……大丈夫です。こちらこそ、すみません」
シオリさんは、淡々とした声で言うと、スカートの埃を払いながらすっと立ち上がった。その動きには無駄がなく、なんだか、ぶつかって尻もちをついたあたしだけが、すごく間抜けに見える。
「あ、あの、怪我とか……」
「ありません。それより、朝倉さんこそ。急いでいるのでは?」
「へ? あ、そうだった! ヤバい、小テスト!」
シオリさんに言われて、あたしは我に返った。そうだ、急がないと! 慌てて立ち上がり、落としたカバンを拾い上げようとした、その時だった。
ピカッ!! ゴロゴロゴロ……!!
さっきまで晴れていたはずの空が、にわかに掻き曇り、校庭の隅にある大きな古いクスノキに、まるで吸い込まれるように、紫色の怪しい光が落ちたのだ。雷? いや、音が違う。もっと、空気がビリビリと痺れるような、嫌な感じ……!
「きゃっ!」
「……!?」
強い光と衝撃に、あたしとシオリさんは、思わず同時にクスノキのすぐそばまで吹き飛ばされ―――そして、そこであたしの意識は途切れた。
*
「……ん……」
どれくらい時間が経ったんだろう。ぼんやりとした意識の中で、誰かに肩を揺さぶられているのを感じた。
「……い。……おい、朝倉! 聞こえているか!」
あれ……? この声、なんか、あたしに似てる……? いや、あたしよりちょっと低い……? 重い瞼をゆっくりと開ける。目の前にあったのは、心配そうにあたしを覗き込む顔……いや、鏡? それは毎朝、見慣れている顔、自分の顔だから間違えようがない。
でも、何か表情が違って……瞳が違う。普段の私に欠如している、理知の光とでも呼ぶべきものが瞳に宿っている。この冷静な顔つき……ついさっき見たことがある。
「……シオリ、さん……?」
「気がついたか。全く、いつまで寝ているつもりだ」
鏡に写ったあたし……いやあたしの顔をして、シオリさんの瞳をした誰かは、ため息をつきながら言った。そのクールな口調はいつも通り……。
身体を起こそうとして、気づいた。なんだか、視界が高い。いつもより、頭がすっきりしている気もする。手足も、心なしか細くて長いような……? ふと、自分の手を見る。白くて、綺麗な指。あれ? あたしの手って、もっとゴツゴツしてなかったっけ? バスケでできたタコとか……。
「……シオリさん、なんか、変……」
「変なのは貴様だ、朝倉。さっきから、私の顔をまじまじと見て……」
言いかけて、シオリさん(?)の言葉が止まった。彼女は、自分の手を見つめ、それから恐る恐る、自分の胸元あたりに触れている。
「……この感触……それに、この声……まさか……」
嫌な予感が、あたしの背筋を駆け上った。まさか、そんな、漫画みたいなことが……。 震える手で、自分の頬に触れる。……うん、すべすべだ。あたしの肌じゃない。 おそるおそる、近くにあった昇降口のガラス窓に、自分の姿を映してみる。
そこにいたのは—————
長い黒髪、切れ長の瞳、クールな美貌。間違いなく、白石シオリさんの姿だった。
「うそ…………」
隣を見ると、「あたし」の姿をしたシオリさん(?)も、ガラスに映る自分の顔を見て、完全に固まっている。その顔は、いつものあたしの、アホっぽい顔だけど、中身が違うからか、見たことないくらい蒼白だ。
「「………………」」
沈黙。 そして。
「「——————マジで入れ替わってるーーーーーっ!?」」
あたしとシオリさん(姿はあたし)の絶叫が、誰もいない昇降口に響き渡った。
「な、な、なんで!? どういうこと!?」
「落ち着け朝倉!……いや、落ち着くのは私か……! おそらく、さっきのクスノキの光が原因だ!」
「原因とかどうでもいいよ! どうすんのこれ!?」
「どうするも何も……!」
キンコンカンコーン……
無情にも、予鈴が鳴り響いた。 まずい。もうすぐ授業が始まってしまう。この姿で!?
「ちょ、シオリさん! なんとかしてよ! 魔法とか使えないの!?」
「私が使えるわけないだろう! 貴様こそ、その無駄な体力で何とかしろ!」
「あたしの体で無茶言わないでよ!」
パニックで言い争っている場合じゃない。でも、どうすれば……!? そうだ、今日は小テスト……! しかも古文! あたしの頭じゃ、絶対無理! 一方、シオリさん(姿はあたし)は、体育があるはずだ。あのシオリさんが、あたしの体でバスケなんてできるわけ……!?
「……仕方ない」
先に冷静さを取り戻したのは、シオリさん(姿はあたし)だった。
「……こうなった以上、今は、お互いのフリをして乗り切るしかない」
「フリって……無理だって! シオリさんのフリなんて、一秒でバレるよ!」
バレるわけにはいかないだろう! 入れ替わったなんて知られたら、大騒ぎになる! いいか、朝倉……いや、『私』。今日の授業、絶対にボロを出すな。特に、古文の小テストは満点を取れ」
「む、むちゃくちゃ言うなーっ!!」
クールな顔(あたしの体だけど)でとんでもない要求をしてくるシオリさん。 ああ、もう、どうなっちゃうの!? 私の、シオリさんとしての一日が、最悪の形で幕を開けようとしていた。優等生のフリなんて、絶対無理だってば……!
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