因縁の怨念! 喜怒哀楽の四葬刃!!
【十条アズマ寺】
「
右手に
節くれだった太い手足から松の木のような印象を抱く。
右手を後ろに引き左手を前に出した構えは
「
鎖鎌使いの長髪の浪人が薄気味悪く笑う。
刺々しい雰囲気が
左手に持った分銅付きの鎖を頭上で振り回しながら、右手に持った鎌を舐め回していた。
「
竹林にたとえられる
槍の
「
細身の日本刀を抜きながら
寝起きのような着流し姿で刀を持った右手も力なくだらりと垂らしている。
四人がそれぞれに名乗りを上げると、憤怒のキヘエがツクモ目掛けて突進してきた。
鉄貫をつけた右手による正拳突きを繰り出す。
ツクモが
直後、舞い上がる床板の破片の間を
こちらも間一髪で回避したツクモだったが鎖に左腕を
「ひひひっ! これで得意の二刀流は使えねえなぁ!」
狂喜のバイケンの得意気な
ツクモはここにきてようやく余った右手で一振りの刀を抜き放つ。
「お命――
そこへ悲哀のインシュンの十文字槍が畳み掛ける。
どうにか右手の刀でそれを受け止めるがツクモの動きはこれで完全に封じられた。
「ツクモさんっ!」
ウズメは慌てて弓を構えると矢を連続で射かける。
しかし、そこへキヘエが立ちはだかり恐るべき技量で矢を撃ち落としていく。
バイケンの鎖ととインシュンの槍がツクモの両腕を封じ、キヘエの鉄貫がウズメの矢を止める。
そんな
ウズメはその後も通じぬ矢の攻撃を続けていた。
その様子にセイジュウロウ以外の三者が呆れたような視線を向ける。
「ウズメ! 無闇に矢を撃つな!」
見かねたツクモが声を上げた――そのとき!
「今です!
幾本もの矢から生じた風が一つに集い、一本の強力な風の矢となって突き進む。
一つの矢から複数の風の矢を生む
破魔の弓矢――六道つむじはその名の通りに周囲を斬り刻むつむじ風を伴う。
ツクモに絡みついていた鎖すらも斬り裂いて、さらに周囲に拡散する。
ウズメの無駄に思える攻撃に油断していた三人は不覚を取りそれぞれに手傷を負った。
「このクソ女がっ!」
逆上したバイケンが手に残った鎌でウズメに斬りかかるが、ツクモの二刀がその斬撃を受け止める。
「くそったれ……」
さすがに
仕切り直しとなった戦況の合間にツクモはウズメに語りかける。
「無事か、ウズメ」
「ええ、ありがとうございます」
「こちらこそ助かった。大した技だ」
それからツクモは先程の攻防の間に生まれた違和感と、そこから閃いた一つの仮説を口早に説明した。
それに対しウズメも手早く反応する。
「なるほど、そうですね。その可能性は高いと思いますよ」
「……では頼んだ。行くぞ」
二人は作戦の実行に移った。
まずはツクモが敵へ向かっていき、その後を追うようにウズメが援護の矢を放つ。
先程の一撃を警戒してキヘエ・バイケン・インシュンはウズメの矢を対処しようとする――が、ここでウズメが繰り出すのは別の技。
「いっけ~! 六根おろしっ!!」
一本の矢から複数の風の矢を生み出す破魔の弓矢。
威力は低いが
さらにツクモが遊撃役として敵の動きを抑えれば、ウズメの仕掛けが整うまでの時間は十分に
「からの~六道つむじっ!!」
再び
しかし、いくら強力とはいえ二度目ともなれば敵も黙ってやられはしない。
余裕をもって技の射程外へ移動するキヘエたち。
だがウズメの攻撃はあくまで
二刀に燃え盛る炎は吹き荒れる風によって威力を上げる。
「――
ツクモは舞い踊るような動きで『妙』と『法』の二文字を剣閃で描き出す。
バイケン・キヘエ・インシュンの順で次々に斬り伏せた。
唯一残ったセイジュウロウが手を叩きながら感心したように言った。
「いや~すごいすごい。相変わらずの強さだね、ツクモさん」
「…………」
「愛想のなさも相変わらずかな。それにしても見事な動きだったね。まるであの三人の逃げる先が分かっていたみたいだったよ」
「確証はなかったがな」
ツクモは一連の攻防の種明かしをする。
「最初にウズメが放った六道つむじ。あのときの三人の逃げ方にはどこか違和感があった。そう、まるで見えない何かに動きを制限されているかのように」
そこからツクモが思い付いた一つの仮説――それはこの塔の部屋の一部だけミヤコの【結界】が解除されているのではないかということ。
そう考えれば、いくら油断があったとはいえ三人の手練れが揃って手傷を負ったことにも納得がいく。
「なるほどね。でも制限されているといっても、それなりの広さは動ける。逃げる先を特定するまではいかないと思うけど」
「そこはあの三人の性格を
好戦的なバイケンは六道つむじの射程外の中でも、すぐに反撃できるよう最もツクモたちに近い位置へ移動するはず。
同じように
無論、これは今回の幽冥の百鬼たちがツクモにとって忘れがたき存在だからできたこと。
いつものように相手のことを覚えていない場合は、さらに苦戦を強いられていただろう。
「もっともお主がどう動くかだけは読めなかったがな。ただあの三人を斬るまでは襲ってはくるまい」
「よく分かっているじゃないか。その通り。ぼくは戦わずにすめばそれが一番だった」
そう言ってセイジュウロウは右手一本で正眼の構えを取る。
それに対してツクモは二刀を交差させる十文字の構えで守りを固める。
ツクモはセイジュウロウに向かい合ったままにウズメへ声を飛ばす。
「ウズメ。後は拙者に任せて、お主は先へ進むといい」
「え、でも――」
「この先、【結界】の術者相手に拙者にできることはない。ならばせめて、この場は受け持たせてくれ」
「……分かりました。がんばってください!」
ウズメが二人の横をすり抜けて塔の上へと進んでいく。
その足音が消えたのを確かめると、セイジュウロウは静かに微笑んだ。
「もしかして、ぼくに気を
「……何の話だ?」
「……まあ、いいや。それじゃあ、さっさと終わらせようか」
すでに勝負の結果は見えていた。
ツクモはセイジュウロウが動ける範囲を完全に把握している。
そんな状態のセイジュウロウに勝ち目はなかった。
誰よりも自由を求めたセイジュウロウという男。
しかし今の彼は体も魂も支配され、どこにも行き場のない
ツクモがウズメを遠ざけたのは、そんな姿を人目に晒すまいと
「お主の無念、拙者が二刀両断してしんぜよう。百人斬りのツクモ、参る」
一瞬の決着――ツクモの破邪の太刀がセイジュウロウの体を鮮やかに斬り裂く。
二度目の死を迎える彼の表情はどこか穏やかなものだった。
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