第7話 紅蓮


 フユさんの押しもあり、私は不本意ながらひとまず魔導士ギルドETERNAL NOTEエターナルノートに入ることを決めました。

 

 中は想像通りというか……人数がまだ5人だけという事で人の集まるギルドとは思えないほどに静かでした。


 ちなみに今は私達を入れて4人しかいません。


 1人は依頼を受ける受付嬢の方、ギルドが小さいので1人で十分みたいです。


 そしてもう一人は長い耳が特徴的な子供……こちらは眠っていて私の存在に気づいていない様子です。


 内装に至っては確かに新築みたいでとても綺麗でしたが、これと言って目立つものはありません。


 一部有名なギルドには図書館や娯楽施設などあるらしいのですが……もしかしてもう1つのギルドではそういったモノがあるのでは?

 

 やっぱりアカユリ地区へ行きましょうかね?


 私がそんなことを考えているとは知らないフユさんは私の手を引いて、聞いていないのにギルドの紹介をしてくれます。


「ここがギルドエターナルノートだ!」

 

「はぁ……どうしてエターナルノートなんですか?」


 ギルドの名前については聞いた当時から気になっていました。

 

 永遠の記録……それとも本?


 ギルドとは魔物退治から雑用までありとあらゆることに首を突っ込む荒くれ集団と教えられました。(育ての師匠の教えです)


 しかし何故か聞いたことも無いはずなのにそのエターナルノートという名前にはどこか聞き覚えがあるような気がしてならない。

 

 フユさんは私の質問に首と両手を同時に横に振りながら応える。

 

「さぁ?ここのギルドを作る時、保証人になってくれた|ギルドマスター(じっちゃん)をがそう付けたんだ」

 

「マスター様……是非ご挨拶させていただきたいのですが……」


 今ギルドに居るのはフユさんと私、受付嬢さん……そして可愛らしく寝息を立てている少女。


 私達以外の2人の中にマスター様が居られるのでしょうか?


 まさかあの可愛らしい女の子がギルドマスター!?

 

 子供がマスターなんてやっぱりここはやめた方が良いんじゃないでしょうか。

 

 まだ決まっても居ないのにそんな不安を抱いてしまいます。

 

 個人的にはマスター様とはご老人のイメージなのですが、それも新しいギルドだからこそ若い人に任せていると考えられますね。


 あ……でもフユさんは先程じっちゃんと言っていましたし、おそらく男性ですよね。


 少なくともこの場にはフユさん以外の男性は居ません。

 

 そんなことを考えていると受付嬢の方が私達の会話を聞いていたみたいで割って入ってくる。

 

「マスターは部屋に居られますよ」

 

「あ、天奈こいつはエレクシア。ギルドの受付を担当していて自分で看板娘とか言ってる変わり者だ」

 

「その紹介の仕方は悪意がありますが……まあよろしくお願います。それよりもせっかく持ってきた依頼……失敗しましたね?」

 

「うげっ!?」

 

「後で話がある……とマスターが言っていましたよ」

 

「………………はい」


 エレクシアと呼ばれた女性は目を細めてフユさんを睨みつけています。


 黒い髪に赤い瞳を持った清楚で神秘的で綺麗な女性。

 

 同じ女として憧れてしまうような方ですが、笑いながらフユさんに詰め寄る姿を見て少々怖いと感じてしまいました。

 

 それにフユさんはまるで蛇に睨まれたウサギのように震えているのを見ると、このエクレシアさんは強い人なのでしょうか。


 怒られる事には慣れていますが、このような怖さは経験がなく、私もちょっと恐ろしいです……。


 家しかしこういう人に限ってとっても仲間想いでフユさんのために怒っている優しい人なのかもしれませんよね!

 

「よろしくとは言ったけど、その子はどこで……まさか!?」

 

「あ、この子は天奈でギルドに――」

 

「このゴミクズめッ!!!!!!」

 

「え……?うごあっ!?」


 エクレシアさんは何を考えて居るのか、私の自己紹介をしてくれようとしてくれたフユさんの顔を力強い叩きを与えました。


 というか口調が変わってる……やっぱり怖い……!!

 

 フユさんの身体はギルドの扉の方まで吹っ飛び、ドンッと重い音が響きます。


 とっても痛そうですが、どうしてあの方は飛ばされたんでしょうか?


「な、なんで殴るんだよ!?」

 

 ごもっともです。


 私もそれに付いてはお聞きしたいと思いますので話を聞くことにしましょう。

 

「貴様このような……か弱い少女を攫って来て……恥ずかしいとは思わないのか!!」

 

「攫ってねぇーよ!ギルドに入りたいっていうから連れてきたんだよ!!」

 

「はぁ?こんな弱小ギルドに人が入ってくれるわけないだろう?孤児院の身内乗りで初めたメンバーはマスターを抜いてたったの4人、ギルドマスターは少し有名でも魅力がない!!」

 

「身内乗りなんかじゃねー!俺は本気だし……てか最後のは言いすぎだろ……」


 自分達のギルドの事を底辺だとサラっと言っておられますが、果たして本当にここで大丈夫なのかと不安になってきます。


 ギルドの内装は綺麗ですし、受付嬢の方以外、つまりフユさんとそこに眠っておられる女の子は強い魔力を有していました。

 

 そのため私はここでも良いかなと一瞬考えましたが、この方の言葉を聞いて心がまた揺らぐ。


 するとエクレシアさんは私の方を見て何か不安そうな目を向けています。


 何か言葉を発する気配もない。まるで何かを確認しているようなそんな目を向けられています。


 怖いので見つめないでほしいのですが、私の顔に何か付いているのでしょうか?


 黙って居ると痺れを切らしたエクレシアさんが声を掛けてきます。

 

「それで君はその……フユに連れ去れてここまで……」


「違います!一応ギルドには自分から付いてきました!!」


「……アカユリ区のギルドミドルガーデンではないのか?」


「あ、もう片方のギルドはミドルガーデンというのですね……一応エターナルノートとフユさんから聞いています」


「……嘘でしょ…………?」


 まるで信じられないというような驚いた表情をされております……。


 なので私ははっきりと応えた。

 

「本当です」


 するとエレクシアさんの瞳に涙が溢れました。


 まさか私が泣かせてしまったのでしょうか?


 そんなことを考えているとエレクシアさんは私に近づいて唐突に抱きしめてきました!!


 物凄くいい匂いと柔らかくて大きなお胸のクッションが心地いいですが少し恥ずかしいです。


「ありがとう!こんなギルドに来てくれてありがとう!!」


「こんな……あ、はい……」


「おっとすまない。苦しかったか?」


「いえ……あ、でも色々と悲しくなるので離れていただけると嬉しいです」


「あ、あぁ……?」


 私は自分の胸に手を当てますがそこにはエレクシアさんに触れた時とは違って硬いモノが当たっています。


(女性として負けた……?)


 いえいえ、相手は大人の女性です。


 年齢の差を棚にあげるつもりではありませんが、身体の成長に関しては時が必要になりますからね!


「まあこれからよろしくお願いしますね。私はエレクシア……こう見えて18歳だから気軽に困ったことがあれば相談してね」


「……」


「どうしましたか?」


「わ、私は……アマナ……くです」


「え?」


「16です~!!!!!!!!!!」


 ほとんど差が無い事にとてつもない不安で大声を上げてしまいました。


 しかしそれをエクレシアさんは何故か好意的に受け取ってきます。

 

「お、おぉ!?やる気があるな……あっ……ありますね!これからよろしくね」


 そして何故か口調を変えたエクレシアさんですが、何か理由があるのでしょうか……?

 

 本人に確認しようか悩みましたが、今は関係のない事ですし、最悪このギルドには入らない選択肢もあるので聞くのはやめておきましょう。


 3歳しか違いが無い事に落胆しながら私は一応魔導士ギルドエターナルノートに入りました。


 本人には尋ねずにフユさんにだけ聞こえる声でボソッと問いかける。

 

「それにしても人が変わりすぎでは……?」


「昔は荒々しい奴だったからな」


「そうなんですね……それよりまだドアに挟まっているんですか?」

 

「……おう、助けてくれ」


 とのことなので、話を進めるためにも面倒ですが私はフユさんを押しつぶしているドアを退けるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る