第6話 ルビーの街


 フユさんに半ば無理矢理手を引っ張られてしまい、なにも悪いことをしていないのに魔法統括協会から逃げてしまいました。

 

 おかげで私はあの街で売ってしまった大切な指輪を取り返すことができなくて……はぁ。


 アレは私の両親の形見と聞いていますが、それを渡してくれた”私の存在を認めてくれた師からのプレゼント”


 高い値で売れたのでお店で販売する時もそれなりの値段が付くはずですから、魔法統括教会が落ち着くまでは我慢するしかなさそうです。

 

 ちなみに魔法統括協会からは逃げることができてしまいました。

 

 喜ぶべきなのか、それとも悪いことをしたと反省すべきなのか……しかし、この国で暮らしていく以上、魔法統括協会を敵には回せませんし、時間も遅く真っ暗だったので私の顔は見られていないはずです。

 

 それにあんなことがありましたが私はあの街での出来事を思い出してちょっとだけワクワクしていました。


 外に出て初めての冒険が見知らぬ男の子とギルドの依頼で会うというもの。

 

 予想外の旅のアクシデントは初めての事で不覚にもこうふんしていました。

 

 ちなみに行く宛てを聞かれてないと言ったら、フユさんの所属するギルドがある街へ来ています。


「街に着いたぞ。ここが俺たちのギルドがあるルビーの街……の端っこにあるクロユリ地区はもう少し歩いたらだ」

 

「端に追いやられてるじゃないですか……なんで区分けされて?」

 

「……そんなことより君はギルドに入る予定はあるのか?」

 

「あ、どうしよ……貴方に無理やり引っ張られてここまで来たので……」

 

「行く宛てが無いのならやっぱりギルドだよな!!来いよ俺たちのギルド!!!!」

 

「でもやっぱり評判とか気になります」

 

「評判は特に何も無いぞ」


 評判がないギルド……つまりそれはよく言えば悪目立ちしないギルド。悪く言えば目立たないギルド。

 

 しかし、目立たないというのは個人的に魅力的です。


 私は目立つことを避けなければなりません。

 

 こうして命があるのもそれが条件だし……。

 

 目立たないのなら彼のギルドでもいいんじゃないかな。


「分かりました。お願いします」

 

「うおおおおおおおお!そうか!じゃあよろしく!!」

 

「はい!!」


 この人は悪い人では無い。

 

 何となく私の天才的な直感が告げているので大丈夫です。

 

 それに街はとても綺麗で落ち着ける良い所。


 私は別の国から来たので建物などの雰囲気が全然違うことに少しだけ違和感を感じつつも既に気に入ってしまいました。


 しかし気になるのは周り人々の痛い視線。


 何やら孤児院の子供なる言葉が聞こえてきました……それはフユさんを見て発せられていたように思います。

 

 よく分かりませんが、それ以外は街の雰囲気は素晴らしい。

 

 ここに住めるのなら文句はありません!

 

「今日からこの街で暮らすのですね熱々ですっ!」

 

「あ、いや……ここはまだクロユリじゃなくてアカユリ地区、もう少しあっちの方にクロユリがある」

 

「おや……?」


 フユさんの指を刺した方向はなんだか空気がどんよりとジメジメしたあまり近づきたくない場所でした。

 

 しかも既に街の半分以上を歩いてしまっているので、私は頭を抱えます。

 

 そう、それはこれから行くクロユリの地区は……アカユリよりも小さいということ。


「というか、そろそろどうして区分けしているのか教えてください」

 

「まあもうここまで来たし、いいか……元々この街はただのルビーの街で、区で別れていなかった」

 

「はい」

 

「そこへ俺達が新たにギルドを建てた」

 

「ほうほう」

 

「元々あったルビーの街のギルドは俺たちのことが気に入らないみたいで、でも王の命令だからと苦肉の策でギルド間で区分けをした。ここのお偉いギルドは自分達だけがこの街の唯一のギルドに君臨していたいらしいんだよ……まったく心が狭いよなぁ」


「なるほど」


「元々のギルドはそれなりに人気だから、俺達はあまり歓迎されてない」

 

 つまり街の嫌われ者ということですね。

 

 なるほどなるほど……それは大変です。


「それでは私はアカユリのギルドへ行きますね」

 

「待ってくれぇぇぇぇぇぇえええええええ!!」


 どうやらフユさんはとてつもなく私をギルドへ迎え入れたいみたいです。

 

 それはもう、まだクロユリ地区に入る前の所でお見事な土下座を披露しました。

 

 この国にも土下座の文化があったのだと謎の感動を覚えつつ、悩みます。

 

 この人は多分、恐らく……いい人です。

 

 他にいいギルドがあるなんていちいち教えたくもなかったでしょう。


 なのに教えてくださったのは隠し事をしたくないという彼の性格の表れではないでしょうか。

 

 それにここまで見事な土下座でお願いされると断るのも酷というモノです。

 

 後、周りの視線が痛いです……まあギルドを見てみるだけなら良いでしょう。


 一度確認して、もしどうしてもダメなら土下座しようとするフユさんの足を蹴って無理やりにでもアカユリのギルドへ行きます。


 しかし私の予想とは裏腹に新しく建てられたということでギルドの中はとっても綺麗でした!!


 だけどここへ来るまでの道中、アカユリからクロユリへ街の景色が移動した時、雰囲気がガラリと変わりスラム街のような少々怪しい雰囲気が漂っているは不安要素の1つ。

 

 後、確かに新しくて綺麗な建物に見えますが……どこか違和感を覚える。


 まるで元あった建物を改装したような……?

 

 そんなことを考えているとギルドの周りを見回すと少し離れた所から人影が近づいできました。


「あら、フユちゃん帰ってきたの?どうだった初依頼は」

 

「あ、ギルドの近くのばあさん!それが隣町の砂浜を半壊させて逃げてきちまって」

 

「あらまあ!若い子は元気ね~!!お姉さんはあなた達のことを認めているから、これからも頑張ってね!!!!」

 

「ありがとうございますばあさん!」


 以外にもギルドの周りの雰囲気は良いみたいです。


 期待はされているみたいですが、アカユリ区の道中でフユさんに向けられていた冷たい目線を考えると少し不安ではありますが……。


 そんなことを考えながらギルドに入るのを躊躇っていると、フユさんは申し訳なさそうな顔で私を覗き見てきました。


 フユさんの顔が近いです。


「そ、その……本当に嫌なら無理にとは言わないんだ」

 

「え?」

 

「ただ君を誘ったのは本気だ……君は新しい流れをこのギルドにもたらしてくれる。そんな気がする」


「はぁ……フユさんはこのギルドが好きなのですね?」


「ギルドは夢だったんだ」


 フユさんはこのギルドの創設者の仲間であり、ある目的を持ってギルドを立ち上げました。

 

 それはこの魔導士ギルド【ETERNAL NOTE】をこの国最高のギルドにするという目的、そのためには強い仲間が必要とのこと。

 

 フユさん曰く私はどこか不思議な雰囲気を纏っており、あの海賊を抜けて操縦席へ移動した手腕に魅入られていたみたいです。

 

 ギルドを有名にするには私の力が必要……フユさんはそう考えてここまで連れてきた。


 単純な理由ではありますが、嫌いではないです。


 しかし私はそう単純ではありません。


「頼む……天才魔導士の君の力を貸してくれ!!」

 

 そんなことを言われても私の心に響くことはありません。


 大事なのはどんなギルドなのか、そして私が居ても大丈夫なのか、それだけが気になります。

 

 まあしかし……私は今まで頼られた事が無いので正直嬉しい気持ちが勝ってしまう。


 仕方ありません、この天才魔導士が一肌脱いで見せましょう!

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