第3話 船に蔓延る悪意
夕暮れ時、デザートローズの街で会ったフユさんに事情を話して行ってしまった船に追いつくために手伝ってもらう事になりました。
その方法は水魔法を使って地面からとてつもない速度で離れる事で宙に浮く。
当然空中では身動きは取れないし、恐ろしい程の風と水の嵐に襲われて死にかけました。
しかし私は何とかショック死せずに豪華客船へ再び戻ってきました。
とてつもなく速い水の噴射に少しトラウマを覚えてしまいましたが、これは私が望んだこと……消したフユさんを恨んだりはしません。
「睨まないでくれ……元々こうする予定だったところに君が居たんだから」
それはそうですね……こちらは無理を言ってお願いした立場なので、それにフユさんを咎めている時間は無いようです。
船の様子というか、どこか妙な気配を感じる。
「ラッピーが言ってたが、海賊が入り込んでいるらしい」
「ラッピー……?」
「俺の従魔の名前」
「可愛らしい名前ですね……というか海賊が居るんですか!?」
この船にまだイズナが居るはずなので危険な目にあっている可能性がある。
あの子は私に大切な存在……もし何かあったら……想像するだけでも嫌!!
「とりあえず、私は部屋へ向かいます!」
「部屋?多分異国の人間だろ?客船の小部屋を借りられるなんてお金持ちなんだな」
「……まあ遺品と手切れ金として渡された……的な……」
遺品は師匠からで手切れ金……基、私が実家から盗んだお金です。
「……複雑な家系なんだな……すまないこれ以上は踏み込む気はない」
「ありがとうございます」
「それなら一旦、君が泊まっていた部屋を見に行こうか」
「私の部屋にですか!?」
「もう違うだろ」
確かに既に部屋を出て、船を降りましたが……3日程の長旅をその部屋で過ごしていたので、もしかしたら私の匂いなどが付いているかもしれません!
そう考えると少し恥ずかしいです……が、これも旅というモノの醍醐味なのかもしれません。
もし危険がある場合きっと彼が近くに居てくれた方が良いでしょう。
私は天才魔導士ですが、味方は多いに越したことはありません。
それにまだ何も起きていない様子ですし、まあ大丈夫でしょう。
ラッピーさんの見間違えという可能性もあります……それにこんな所に海賊が居るなんておかしな話――
きゃああああああああああああ!!
……と思っていましたら船のエントランスから女性の悲鳴が届く。
私達は船の屋根の上に居るので人と鉢合わせる事はありませんでした。
しかしそんなことはどうでもいいんです。
あの叫び声からして私の連れてであるイズナではありませんが、ここが危険な場所だというのは分かりました。
なので私はあの子を助けに行かなくてはいけません!!
「イズナ!!」
「待て天奈!!」
「な、どうして止めるんですか!」
「敵の数とか分からないし、多いとこっちに魔力が切れるぞ?君は要っちゃ悪いがそんなに魔力量多くないだろ」
「そんなの……知りません!!」
「え……っておい!!」
フユさんの言っている事はごもっともですが、私はそんな事はどうでもいいのです!!
大事なのは自分よりもイズナ……大切な私のパートナー!!
「ごめんなさい……ここまで連れて来て下さり誠に感謝しておりますが……イズナが危険な目に合っているのなら……助けなきゃ!」
私はフユさんを置いてそのままエントランスまで走り出しました。
――
魔導士ギルドの依頼で客船に乗る人の護衛を受けたフユは遠ざかって行く天奈を追わずに見つめていた。
この依頼をたった一人で受けたフユは面倒なトラブルに巻き込まれてしまったことに少し嫌気が差している。
「ったく行っちまった……」
そんなフユの悪態を聞いた、カラスのラッピーが彼にしか伝わらない言葉を掛ける。
「フユ様、あの子……信用できるのですか?」
「こんな客船に乗れるってことは、それなりの家の娘だったのかもな。お嬢様なら個人用の船とか持ってそうだが……?どうしてこんな客船に……」
「フユ様の言う通りかと……船の中の海賊含め、あの娘の警戒を怠らないでください」
「あぁ……ラッピーも空から船の様子を見て何か変化があれば伝えてくれ」
「はい!」
ラッピーは船の上を旋回する。
今はこの護衛依頼を何としても完遂しないといけない、これはフユにとって初の依頼だから。
そんなことを考えながら誰も居ない廊下を駆けていく。
「クソ……護衛依頼とか大体何もなく終わるモノだろうが!」
そんな安着な考えで受けてしまった自分を恨みながら、天奈が入って行ったエントランスへ向かった。
中は先程の叫び声の通りエントランスの中央に人々が集められていて、その先に海賊が女性を捕まえて首筋にナイフを添えている。
「助けてぇぇぇぇええええええ!!」
「うるせぇ!黙らねぇと殺すぞ!!」
「うぅ……うぐっ……」
泣いている女性に心を痛めるフユは助けに入るべきか悩む、護衛対象ではないので助ける必要はない。
しかし彼は見過ごせない人間でした。
助けに行こうとしたその時、ある違和感に気が付いた。それは――
(天奈はどこへ行ったんだ?一切気配を感じない)
この敵だらけの場所で誰にも気づかれずに抜け出すのはほぼ不可能。
中央には観光客たちが集められ、それを囲うように海賊達が見張っている。
(この敵の包囲網を潜り抜けた……?あの子、何者なんだ……?)
「今はそんなことは気にする所じゃないか……。せっかくギルドを設立できて、初めての依頼なんだ。絶対に達成しないと!!」
フユはギルド設立の時、自分を含めた4人とギルドマスターになってくる人と役所に行って魔導士ギルド設立を認めてもらったことを思い出す。
世界で見てもマスターを抜けば今は4人だけという最弱ギルドに所属だが、いずれこの大陸一の名を手にする――そんな夢を抱きながら受けたこの依頼。
1人でこんな大仕事を最初にこなしたとなれば、一気に評価を上げられると確信していた。
そしてフユには達成できるだけの自信があった。
船を乗り過ごすヘマさえしなければ……。
「こんな所で足止めを食らってる場合じゃねーんだよッ!!」
コソコソしていてもいずれ見つかるだけなら、海賊を殲滅を考える。
護衛対象はエントランスに集められた人が多くて居るか分からないし、何より海賊を倒せば依頼は達成できるだろう。
それに目の前で泣いている人を放っておけないという考えがフユを突き動かす。
剣は抜かず、手に水魔法で作った剣を握りしめて、振り被る。
水の剣を横に薙ぎ払った瞬間、水の斬撃が海賊達を襲う。
幸いエントランスに集められている人達は縛られてうつ伏せにされているのでターゲットを間違えることは無い。
しかし相手は1人や二人ではない。
フユの斬撃を受けて何人か倒れていますが、まだまだ敵の数は減っていない。
そんな光景を目にした細身の海賊の男が前へ出てくる。
「おいおい、ガキがやってくれんじゃねーのてめぇ何もんだ?」
「ギルドエターナルノートに来た依頼でこの船の客の護衛を受けた魔導士だ!!ガキじゃねー!!」
「無名ギルドかよ……ガキだな」
「何を……!!」
前に出てきたこの細身の海賊がボスだとフユは感じた。
纏っているオーラ、魔力、そして何より細身の身体に無数の傷跡。
(他とは明らかに雰囲気が違う!コイツを倒せば何とかなるはずだ!!)
そんなことを考えながら水の剣を振るう――しかしその時、水の剣に電流が走りフユの身体を電撃が襲う。
「ぐあああああああああっ!?」
腕が壊れるんじゃないかと思うくらい痺れて動かなくなる。
たかが一瞬とはいえ、フユが剣を握っていた手が痺れて動きが鈍くなってしまう。
海賊のボス?は雷の魔導士でした。
「くっ……」
「さてエターナルノート……本に描かれるのは勝利か敗北か……敗北を永遠に刻んでやるよ!!」
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