第26話 誰もが求めた平凡

 あれから数ヶ月──朝霧の晴れたある日、王都エルディアの広場は、活気に満ちていた。


 行き交う人々の顔には、どこか穏やかで晴れやかな表情が浮かんでいる。かつてのような殺伐とした空気はすでになく、代わりに、どこか懐かしい──そして新しい希望が街全体を包んでいた。


 そんな広場の片隅では、何人かの国民たちが談笑を交わしていた。年齢も立場も違う人々が、同じ話題に花を咲かせていた。


「ベルツが治めていた時とは……本当に、天と地の差だな……」


 商人風の男が、手にした果物を袋に詰めながらしみじみと語る。


「街を歩いてても誰かに因縁をつけられる心配がない。税も無茶を押しつけてこないし、騎士団も礼儀正しい。……あの恐怖の時代が嘘みたいだよ。あれもこれも、レオンさんたちのおかげなんだ。」


 隣にいた若い職人が頷く。


「国の雰囲気がまるで別の国みたいになったよな。前はただ朝起きて生き延びるだけで精一杯だったが、今は……未来のことを考えられる。」


 その言葉に、近くにいた老女が静かに微笑みながら口を開いた。


「ほっほ、ほんにそうじゃ。ワシら年寄りはよう知っとる。エルディアが輝いていた頃を……。あの輝きが、ようやく戻ってきたんじゃよ。レオンとディーたちのおかげでのう。あやつらの努力は、誇るべきものじゃ。感謝せねばならぬわい。」


 少し離れたところでは、子どもを抱いた母親が、周囲の友人たちに話していた。


「この子が安心して笑えるのは、レオン様たちのおかげよ。家族を守るのに怯えなくて済む日々が、こんなにもありがたいなんて……。彼らの功績は決して忘れられないわ。私はずっと、彼らを支持し続けるつもりよ。」


「ほんとね。最初は“魔王と勇者が国を治めるなんて”って、ちょっと思ったけど……今では、その組み合わせこそが奇跡だったんだって思うわ。」


「うん、みんな違うのに、あんなにも心をひとつにして動けるなんて、なかなか真似できないことだよね。」


 国民たちの声は、どれも静かで、温かく、深い感謝に満ちていた。


 彼らが抱いているのは、単なる“支持”ではなかった。信頼、敬意、そして心からの希望。


 そしてそれこそが、今のエルディアを根底から支えている“新たな力”だった。


 人々はかつての苦しみを決して忘れない。その記憶があるからこそ、今の平和をかみしめることができる。


 その平和の礎となったもの──それは、勇者レオンと、魔王ディー、そしてその仲間たちの揺るがぬ信念と絆だった。

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