第3章 陽はまた昇る

第24話 朝焼け

 玉座の間には、深い静寂が訪れていた。


 剣は収まり、魔力の余韻も消え、戦の気配は嘘のように静まり返っていた。


 そんな中、レオンがゆっくりと玉座の階段を一段ずつ上がり、ついにその頂に立った。そして、力強く拳を握りしめ、感極まったように声を上げた。


「……ようやくこの時が来た……!」


 天を仰ぎ、深く息を吸い込む。


「俺たちは、勝ったんだな……!」


 その言葉に、仲間たちの顔にも自然と笑みが広がった。


「やったな、レオン!」


 と、ゴーンが豪快に笑いながらレオンの背中を叩いた。……いや、叩いたというよりは、殴ったに近い力加減だった。


「いててっ……! 頼むから加減ってものを覚えてくれ。俺はただの人間なんだぞ!」


「ははっ、悪い悪い! だがまあ、これからは“ただの人間”じゃねえだろ? 国を治める身になるんだ、気ぃ引き締めとけよ!」


 笑いながらも、ゴーンの言葉には、未来を託すような真剣さが込められていた。


 そのやり取りを、リリスは微笑みながら見つめていた。戦いの中で見せた鋭さとは打って変わって、今の彼女の表情は柔らかく、どこか誇らしげだった。


「ふふ、相変わらず仲良しね。……でも、本当にここからが始まりよ。レオン、私たちも協力するわ。だから、これからも一緒に頑張りましょうね。」


「ありがとう、リリス……頼りにしてる。」


 レオンが素直にそう返すと、その隣からは静かな声が割って入った。


「……レオン。」


 アゼルの声は低く、しかし凛と響いていた。彼はまっすぐにレオンを見つめて言った。


「お前が私利私欲に走ることはないと信じている。だが、万が一……お前がベルツのようになった時は、その時は、容赦なくお前を討つ。」


 一切の感情を抑えた言葉。だが、その裏にはレオンを信じるからこそ、という強い覚悟があった。


 レオンはその言葉を真摯に受け止め、小さく頷いた。


「……ありがとう。俺自身、それを忘れないようにする。間違いそうになったら……その時は、止めてくれ。」


 そして、玉座の脇に立っていたディーが、再び背を向けて歩き出す。


「……とはいえ、この場で勝利に酔っている暇はない。」


 その声には、かつての魔王としての冷徹さと、仲間を導く指導者としての意志が込められていた。


「今夜中に、城に巣食う膿をすべて取り除く。ベルツの支配下にあった官僚、軍人、取り巻き──そのすべてを見極め、排除せねば、この国は変わらん。」


「分かった。すぐ動こう」


 レオンの目に、再び炎のような光が宿った。


 こうして、レオンたちは勝利の余韻に浸る間もなく、次なる戦いへと踏み出した。


 不当な扱いを受け、苦しめられてきた民たちを解放するため。


 横暴を振るっていた衛兵や私腹を肥やすことに執心していた者たちを追放し、真に民を守る国を再編するため。


 そして、隣国との敵対関係を改め、共に歩める未来を築くため。


 玉座を奪い返すことは、終わりではなかった。それは、長く苦しい戦いの“始まり”だったのだ。


 だが、レオンには仲間がいた。信頼できる魔王と四天王、戦い抜いてきた絆。そして、民の想いと希望が背中を押してくれる。


 その先にどんな困難が待っていようとも、レオンはもう逃げない。


 新たな時代の夜明けは、確かにここから始まっていた。

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