第22話 未だ耐え忍ぶ時
にらみ合いのような沈黙が続く中、大広間から数人の衛兵たちが出てきた。彼らは剣を腰に下げたまま、あくびを噛み殺しながら通路をゆっくりと歩いていく。その背中に緊張はなく、戦意も全くない。ただの交代のようだ。
レオンはその様子を目の端で捉え、ピクリと眉を動かした。
「……もしかすると、これが唯一の好機かもしれないな。」
言葉は低く、慎重に選ばれたものだったが、その中には確かな意志が込められていた。
その一言に、隣で身を潜めていたアゼルが静かに頷く。
「ああ。どうやらお前も同じことを考えているようだな。確かに、今なら自然な流れで中に入れる。」
「ふふっ、私もそう思ってたのよ。あの人たちを倒して、鎧を拝借するのが一番スマートだって。」
リリスは得意げに微笑む。彼女の手にはすでに幻惑の小術が込められていた。
「考えることは皆一緒みたいね。さすがに、ここまで来ると息が合ってくるわね。」
ディーは彼らの会話を黙って聞いていたが、やがてゴーンへと視線を向ける。
「……ゴーン。」
「お?」
ディーはいつにも増して鋭い目で指示を送る。
「お前には変装はできない。しかし“混乱を演出する役”として、極めて重要な役割がある。後ほど説明するが、その時が来たら……ためらうな。」
ゴーンは豪快に笑い、拳を軽く叩き合わせた。
「おう、そうこなくっちゃな! 俺にぴったりの仕事ってやつを期待してるぜ」
一瞬のうなずき合い。それで、すべては決まった。
レオンたちは静かに回り込み、休憩のために通路を歩く四人の衛兵に近づいた。リリスの指先が淡く光り、次の瞬間には地を這う雷撃が音もなく放たれた。
「っ……!」
衛兵たちは目を見開く間もなく、静かに崩れ落ちた。気絶させただけで、傷一つない。完璧な手際だった。
アゼルが手早く鎧を奪い取り、ゴーンを除く四人はその上から装備を整えていく。ディーは慎重に魔力の気配を消しながら、周囲の気配に注意を向け続けていた。そんな時、レオンの鎧姿を見たリリスが突然軽口を叩く。
「……よし、問題なし。似合ってるわよ、レオン。」
「褒められてる気がしないな……」
「ふふ、緊張をほぐすためよ?」
全員が装備を終えると、最後にレオンが深く息を吸った。
「……行こう。中に入っても油断はするな。全ては、ベルツの懐に近づくための第一段階だ。」
四人はゴーンを陰に潜ませて、何食わぬ顔で大広間の扉を押し開いた。
その立ち振る舞いは、逸る心とは裏腹に、衛兵として自然なものだった。
ベルツ打倒まであと一歩──運命の時は、目前に迫っていた。
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