第17話 不安と恐怖の狭間を抜けて

 日が傾き、エルディアの空が茜色に染まる頃、レオンとその仲間たちが村の広場を後にしたあとも、村人たちの間では小さなざわめきが続いていた。


 あちこちで、戸を少しだけ開けて様子を伺う者。家の前に立って腕を組み、黙って空を見上げる者。村の空気は、久しぶりに活気を取り戻しつつあったが、それは決してただの“歓迎”だけではなかった。


「レオンが戻ってきたのは嬉しいけど……まさか魔族を連れてくるなんてね……」


 井戸端に集まった年配の女性たちが、声を潜めて囁き合う。


「王様を倒すだなんて、大それたことを……。しかも、魔族の力を借りて……誑かされてるんじゃないかしら。あの魔王、なんだか落ち着きすぎてて、逆に怖いわ……」


「でも、さっきの魔族たち、暴れたりする様子はなかったよ。むしろレオンより礼儀正しかったような……。あの女の魔族は、ちょっと軽そうな性格してたけどな。」


 若い男たちは小声で笑いながらも、どこか興味深げに話を交わしていた。


 一方で、子どもを抱いた母親が、そっと隣の女性に言葉を投げかけた。


「……でも、私、信じてるの。レオンなら、きっと私たちを裏切らないって。昔から、困ってる人を放っておけない子だったもの。」


「ええ。私もそう思う。彼の目……真剣だったわ。怖がってる暇があるなら、信じて待っていたい。」


 その言葉に、周囲の村人たちも次第に表情を和らげ始めた。


「そうだな……誰よりこの国を憂いてたのは、あいつだったかもしれない。」


「レオンが本当に国を変えるつもりなら……私たちも、信じて見届けるしかないわね。」


 不安は、まだ完全に消えたわけではなかった。だが、その中にも希望の光が差し込み始めていた。レオンの真っ直ぐな言葉と、仲間たちの誠実な振る舞いが、少しずつ彼らの心を溶かしていく。


 焚き火の周りにぽつぽつと人が集まりはじめる。


 話すことは、未来のことだった。


「明日は何か、少し変わってるかもしれないね……」


「そうね、変わるかもしれない……いや、変わるんだと思う。」


 静かだった村に、久々に人々の声と笑いが戻ってきていた。それは、ほんの小さな、しかし確かな“希望”の音だった。

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