第4話 楽しい時間。

 祐香は最初に攻撃組のAチームとなった。

 チー厶メンバーは、ドクター、ロイヤー、ファイターに祐香とファーストの五名。

「このメンバーなら、通例通り私が指揮官でいいかな? ロイヤー、ファイター?」

「異議なし」

「いいぞー」

 ロイヤーとファイターが答える。

「では、フィールドを確認しよう」

 フラッグがあるのは、レンガ色に塗られたベニヤの壁に覆われたスポットの中だった。

 三方向を囲み、入口に突入するには回り込む必要があった。

 ドクターが地面に軽く図を描いた。

 フラッグを中心に障害物を描き込んでいく。

「私とファイター、そしてキャットが右側から」

 そう言って矢印を描き込む。

「ロイヤーとファーストが左側から。我々が目立つように進む。ティーチャーが指揮を取っている場合、ティーチャーが残って、二人ずつ迎撃に来るだろう。ロイヤーとファーストは何とか相討ちに持ち込んでくれ」

「了解」

「一人でも生き残ったら、そのままタイミングを見て突撃。私たちの突撃に合わせて走ってくれ。私たちはこの障害物の場所でロイヤーたちの決着を待ちつつ、時間を稼ぎ、決着がついたらどんな決着だろうと突撃をかける」

「こちらが不利でも?」

 と、ファイター。

「五人のチームで、そんな複雑なことを考えても仕方ない。突撃、好きだろ?」

「たしかにそうだ」

 ファイターは、そう言って笑う。

「どうせ、まだ初戦だ。お互いの動きを知るためのエキジビションみたいなものと思って、気楽に行こう」

 祐香はそれを聞いて安心した。

「キャットは気負わないでくれよ。楽しく射ちまくれば、それでいい。何せ弾代はドラゴンさんもちだ」と笑う。

「了解しました」

 物わかりのいいリーダー。

 そして、財布の心配はしなくてもいい。

 楽しいゲームになりそうだった。


 結果として。

 初戦は祐香たち攻撃側の勝利。

 ロイヤーたちがスカジャン・プレイヤー組と射ち合って引き分けたのがポイントだった。

 フィジカルに勝るペアに対して、きっちり足を止めつつ、冷静にBB弾を当てて、止めたのだ。特にロイヤーの的確な指示が光っていた。

 その一方、プロアスリートに対して、決して引けを取らないスカジャンのフィジカルが一気に注目を浴びた。

 攻守入れ替わると、スカジャン・プレイヤー組をツートップにして、全員総攻撃で上がってきたチームがあっさりとフラッグを取って勝利した。

 次は、メンバーを入れ替えてフラッグ戦。

 ドクターのフィールドを見る目はたしかで、的確に対応の指示が飛んでくる。

 だが、少人数のゲームだと、どうしても勢いで殲滅できる部分があるため、フィジカルの高いスカジャン、プレイヤー、ファイターに押しつぶされる傾向がある。

 途中でそれを理解したのか、頭を使うのはやめた、とばかりに戦場を走り始めた。

 すると、見る見るうちにヒットの数を増やしていく。

 ティーチャーは勝ち負けよりも遠距離狙撃の成否に集中しているらしく、油断したタイミングでBB弾が飛んでくる。スナイパーにのみ許可された重量弾が威力を発揮すると、ニタリと笑っている。

 コンサルタントとロイヤーは基本に忠実な、堅実な動き方をしていた。

 フィジカル組が待ち伏せで止められるときは、大体この二人が鍵となっている。

 祐香はコンサルタントやロイヤーに近い、堅実な動きを基本としていた。

 ゴスロリもこのグループに入る。

 そして、人を入れ替え、ゲームの種類を変えて、ひたすら走り回った後に、バーベキュータイムが訪れた。


 祐香もここぞとばかりに、肉に舌鼓をうつ。

 本当は、ホスト側として遠慮しようとしていた。

 だが、無理だった。

 走り回った挙句に、かなりいい肉を本格的に調理しているのだ。

 手が止まるはずもなかった。

「呑むかい?」

 片手にビールの缶を持ったドクターがやってきた。

「呑むと走れなくなるので」

 祐香はそう言って笑ってみせた。

「そうかい。じゃ、こっち」

 逆の手に隠してあったのはジンジャーエールと烏龍茶の缶。

 祐香は烏龍茶を受け取った。

 多少、カロリーに配慮したのだが、あまり意味はないかな、と自嘲する。

「ありがとうございます」

「おや、ドクターはキャットがお気に入りかな?」

 そう声をかけてきたのはロイヤー。

「何か失礼はなかったかい? キャット」

「いいえ。紳士的な対応をいただいてます」

「そりゃ、何より」

 ロイヤーはつぶやきつつ、隣に腰を下ろす。

「君らは女性に食べる物を持ってこないのかい?」

 ファイターが焼いた肉の乗った皿を持って現れた。

 筋肉のついたマッチョタイプの男に、肉はよく似合っていた。

「ありがとうございます」

 好意を素直に受け、笑みを返す。

「サバゲーを始めて何年くらい?」

 ファイターの質問に笑顔で返す。

「三年くらいですよ」

「誰の影響? 彼氏?」

「兄ですよ」

 嘘だけど。

 祐香はにこりと笑う。

「いろいろ教えてもらいました。銃を買うときは外見ではなく東京マルイで選べ、とか」

「いいお兄さんだ」

 と、ドクター。

「でも、そんなに違うかい?」

 ロイヤーが口を出す。

「カスタムすれば、どこでも一緒らしいですが、箱出しだったら、マルイが一番らしいです」

「そうなんだな。あまり、よく知らなくてね。ドクターに言われてオススメ品買っただけだからな」

「まあ、こんなものは撃てればいいのさ。で、お兄さんに勧められて始めたの?」

 と、ファイター。

「そうですね。もともとは友だちの彼氏がはまってて、女の子一人じゃ嫌だから一緒に、と言われて。そのチームに兄がいるとは知らなくて。その時まで、兄のことなんて変なオタクとしか思ってなかったんですが、結構仲良くなりました」

 大嘘だけど、完全な嘘ではない。

 友だちに連れて行かれて、そこで仲良くなった男がいたのは本当のことだ。

「うーん、こういう妹が欲しいな、私も」

 と、ロイヤー。

「お前のとこの妹、怖いからな」

 ドクターが茶々を入れる。

「お二人は長い付き合いっておっしゃってましたが、お仕事の関係なんですか? それとも子どもの頃からとか」

「ガキの頃からだよ。腐れ縁みたいなものだよ。だから家族構成まで知ってんだよ」

 ドクターが笑う。

 あやふやな宙を舞う会話。

 その場限りの潤滑油。

 斜め見すると、プレイヤーがスカジャンと話をしていた。

 ティーチャーとコンサルタントはゴスロリとだ。

 スカジャンの、あのぶっきらほうな態度でもいいんだ、と思いつつ。

 祐香は目の前の三人との会話に集中した。

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