第7話

その7




「はあ、はあ…、先生、すいませんでした。遅くなりました」



「ああ…。じゃあ、ちょうどウシロの2組が来たとこで、今脱衣中だから。お前も急いで上半身裸になって、1組の最後尾につけ」



「はい…」



”わー、思惑通りだ…”



律也はで内心、自己陶酔気味にニヤリとしていた。

実際、願った通りの展開に持っていけたことには、確かな手ごたえを感じていたのだ。



そんなことを頭で考えている間も、彼の両目はしっかりユウトの姿を探していた。

化学の実験室である最初の健診会場では、囲み型のテーブルは移動できず、何人かが3つのテーブルに分かれて服を脱いでいた。



さすがに一斉に同じ動作ともなると、20人弱とはいえ、即特定はなかなか難儀だった。

しかも、律也は遅れてきた立場なので、何しろ自分が服を脱ぐのに気が急いていた。



ユウトを見つけることができたのは、問診票を手にパンツ一枚になって列に向かった時だった。



”いた!”



律也は声に出さず叫んだ。



***



お目当ての”彼”は、すでに2組の最前列についていた。

やはり出席番号は1番だったようだ…。



「おお、律也!早くこっちに着けよ」



所属する1組の列に目をやると、最後尾の山倉スミオが手にした問診票で合図を送ってくれた。

彼は急ぎ足で、待機している2組の列をかき分け、スミオの後ろに並んだ。



そして…、その後ろが案の定、青山ユウトということだった。



***



「ちょうど、順番回るとこだったわ。間にあったか、ウンコ?」



「はは、何とか。きれいに拭いてきたから、臭くないと思う(苦笑)」



確かにトイレの個室で律也は丁寧に拭いた。

しかし、そこは尻はなかったが…。



そんなことには予想だもないスミオは、「そうか。ハハハ…」と愛想よく受け答えしてくれている。



”さあ…、ここで、さっきから視界の隅に入ってる後ろの彼にアイサツするぞ!”



時はきた…。

律也的にはそんなところだった。



***



彼はスミオが前に振り返ったことを確認してから、後ろに顔を向けた。

それは約3M…。



そう、その距離を挟んで、上半身裸の小柄な青島ユウトは立っていた。

問診票を片手に…。

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