第40話 石板の解析、迫る影
古代遺跡から持ち帰られた石板の解析は、颯太と、外部の永礼を中心としたNEED&luxury社の技術チームによって、極秘裏に進められていた。
石板に刻まれた古代文字は、颯太の推測通り、ゲーム開発初期に使われた内部言語であり、その解読は彼にしかできなかった。
颯太は、ギルドハウスの自室に篭もり、石板のデータをスキャンした画像をモニターに映し出し、一文字一文字、慎重に解読作業を進めていく。
それは、膨大な集中力と知識を要する、孤独な作業だった。
(この部分は、システムのセキュリティプロトコルに関する記述…こっちは、データストレージのアドレス…そして、これが…!)
数日間に及ぶ解析の結果、颯太はついに、石板に隠された核心的な情報へと辿り着いた。
それは、T国によって改変された「クラウ・ソラスⅢ」のシステムの中枢…ログアウト機能とデスペナルティ処理を司るコアプログラムの正確なアドレスと、その改変パターンを示す詳細なデータだった。
『永礼、やったぞ…! 石板の解析、ほぼ完了した! これで、T国の改変箇所を特定できる!』
颯太は、興奮を抑えながら永礼に報告する。
『本当か、颯太!? やったな! さすがだ! そのデータがあれば、修正パッチの精度を格段に上げられる! いや、それだけじゃない…もしかしたら、T国の干渉を完全に排除し、システムを初期状態に戻せるかもしれない!』
永礼の声も、喜びと興奮で震えていた。
長かった暗闇の中に、ようやく確かな光が見えてきたのだ。
しかし、問題はそう簡単ではなかった。
石板のデータは、あくまで「設計図」のようなもの。
実際にシステムを修正するためには、ゲーム内部から、そのコアプログラムに直接アクセスし、T国が仕掛けたプロテクトを解除し、さらに正確な修正コードを適用するという、非常に高度で危険な作業が必要となる。
『コアプログラムへのアクセスは、通常の手段では不可能だ。おそらく、遺跡の最深部に、そのための特殊なコンソールか、あるいはゲートのようなものが存在するはずだ。そして、それを起動するためには、石板に記された、もう一つの情報…「マスターキー」と呼ばれるものが必要になる』
石板には、システムの改変情報だけでなく、それを修正するための「鍵」の在処も示唆されていたのだ。
それは、ゲーム世界のどこかに隠された、三つの「試練」をクリアすることで得られるという。
『三つの試練…マスターキー…か。やはり、一筋縄ではいかないな』
『ああ。だが、これで具体的な目標ができた。俺は、ゲーム内部でその試練に挑み、マスターキーを手に入れる。永礼たちは、外部から、俺がコアプログラムにアクセスした際のサポートと、最終的な修正パッチの準備を頼む』
『了解だ! 全力でサポートする! だが颯太、くれぐれも無茶はするなよ。お前に何かあったら、全てが終わりなんだからな』
『わかっている』
颯太と永礼は、固い決意を胸に、それぞれの役割を再確認した。
しかし、彼らが希望の光を見出しつつある一方で、アークライトの街には、アンジェロが放った悪意の影が、確実に広がりつつあった。
「ルーカスが、遺跡で何かヤバいものを見つけたらしいぜ」
「それで、自分だけ抜け駆けして、現実に戻ろうとしてるって噂だ」
「俺たちを見捨てて、かよ…許せねぇ!」
アンジェロは、石板の情報を逆手に取り、「ルーカスが独り占めしようとしている」というデマを流布し、プレイヤーたちの不満と嫉妬を煽っていた。
justiceのメンバーだけでなく、一部の一般プレイヤーの中にも、そのデマを信じ込み、ルーカスに対して敵意を抱く者が出始めていた。
cloverのギルドハウスの周辺にも、再びjusticeのメンバーと思しき不審な影が見え隠れするようになっていた。
彼らは、以前よりも大胆に、そして執拗に、颯太やcloverのメンバーの行動を監視しているようだった。
「ルーカスさん、最近、また外の様子がおかしいです…」
紗奈が、不安そうに颯太に報告する。
「ああ、気づいている。アンジェロが、何かを仕掛けてくるつもりだろう。だが、俺たちは俺たちのやるべきことをやるだけだ」
颯太は、冷静に答える。
しかし、彼の内心では、迫りくる脅威への警戒と、仲間たちを守らねばならないという強い責任感が渦巻いていた。
マスターキーを手に入れるための三つの試練。
それは、これまでのどの戦いよりも過酷で、危険なものになるだろう。
そして、その背後では、アンジェロとjusticeが、必ず妨害を仕掛けてくるはずだ。
石板の解析によって、脱出への具体的な道筋は見えた。
しかし、それは同時に、新たな、そしてより熾烈な戦いの始まりを告げるものでもあった。
颯太と仲間たちの、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
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