第32話 嘆きの山脈、最初の試練
嘆きの山脈を進む連合攻略隊の前に、最初の大きな試練が立ちはだかった。
それは、山脈の中腹に位置する、巨大な洞窟群だった。
古代遺跡へ至るためには、この危険な洞窟を突破しなければならない。
洞窟内部は、迷路のように入り組んでおり、松明や魔法の光がなければ一寸先も見えないほどの暗闇に包まれていた。
湿った空気と、どこからともなく聞こえてくる不気味なモンスターの息遣いが、プレイヤーたちの不安を煽る。
「うわっ…なんだ、今の音…」
「足元に気をつけろ! 何かいるぞ!」
暗闇の中から、鋭い牙を持つ巨大な蝙蝠(ジャイアントバット)や、毒を持つ蜘蛛(ポイズンスパイダー)が襲いかかってくる。
視界の悪い中での戦闘は、プレイヤーたちに大きなストレスを与えた。
「落ち着け! 隊列を崩すな! 索敵スキル持ちは前へ!」
ジニーが冷静に指示を飛ばし、混乱を抑えようとする。
颯太は、デバッグ用キャラが持つ暗視スキルを最大限に活用し、暗闇の中でも周囲の状況を正確に把握していた。
彼は、モンスターの出現位置や、隠された罠の場所を的確に見抜き、仲間たちに警告を発する。
「右前方、壁の亀裂にスパイダーの巣があります! 火炎魔法で焼き払ってください!」
「その先の床、色が違う部分は落とし穴です! 迂回しましょう!」
颯太の指示は、攻略隊の被害を最小限に抑えるのに大きく貢献した。
しかし、彼のその異常なまでの索敵能力と危機回避能力は、一部のプレイヤーにさらなる疑念を抱かせることにも繋がった。
(ルーカスさん…どうしてあんなに暗闇が見えるの…? まるで、私たちとは違うものが見えているみたい…)
リィラは、颯太の背中を見つめながら、そんなことを考えていた。
洞窟の奥深くへと進むにつれて、モンスターはより強力になり、罠も巧妙さを増していく。
そして、攻略隊はついに、この洞窟の主と遭遇した。
それは、体長10メートルを超える、巨大な地底竜(アースドラゴン)だった。
「グルォォォォォ!!」
地底竜の咆哮が洞窟全体を震わせ、天井から岩石がパラパラと落下する。
その巨体から繰り出される爪や尻尾の一撃は、まともに受ければ即死級の威力だ。
「総員、戦闘準備! タンクはヘイトを集中! アタッカーは弱点を狙え! ヒーラーは回復を最優先に!」
ジニーの号令一下、攻略隊と地底竜との激しい戦闘が始まった。
イズルやナギサをはじめとするタンカーたちが、決死の覚悟で地底竜の攻撃を受け止める。
しかし、相手のパワーは圧倒的で、次々と吹き飛ばされていく。
「くそっ、硬すぎる! ダメージが通らねぇ!」
「回復が間に合わない!」
アタッカーたちの攻撃も、地底竜の分厚い鱗に阻まれ、有効なダメージを与えられない。
ヒーラーたちも必死に回復魔法をかけるが、MPがみるみるうちに減っていく。
絶望的な状況。このままでは全滅も時間の問題だ。
(まずいな…このままでは被害が大きすぎる。何か、打開策は…)
颯太は、冷静に戦況を分析しながら、活路を探っていた。
彼は、地底竜の攻撃パターンと、洞窟の地形を注意深く観察する。そして、あることに気づいた。
(あの地底竜…時折、天井の特定の場所を気にしているような動きを見せるな。そして、あの場所の岩盤だけ、色が他と少し違う…まさか…)
颯太は、デバッガーとしての勘で、そこに何かがあると直感した。
「ジニーさん! あの天井の、色が違う岩盤! あそこを集中攻撃してください! あれを破壊すれば、何かが起こるかもしれません!」
颯太は、ジニーに提案する。
「天井の岩盤…? わかったわ、ルーカスさん! あなたを信じましょう! 全員、目標変更! 天井のあの岩盤を攻撃!」
ジニーは、颯太の提案に賭けることにした。
攻略隊の攻撃目標が、一斉に天井の岩盤へと変更される。
弓兵の矢、魔法使いの魔法、そして一部の戦士が投げ放つ武器が、天井の岩盤に集中する。
数度の攻撃の後、ついに岩盤が大きな音を立てて崩落した!
ガラガラガッシャーン!
崩れ落ちた岩盤の下から現れたのは、巨大な鍾乳石だった。
そして、その鍾乳石は、バランスを崩し、真下にいる地底竜の頭上へと落下していく!
「グルォォッ!?」
地底竜は、予期せぬ事態に驚き、避けようとするが間に合わない。巨大な鍾乳石が、地底竜の頭部に直撃した!
ゴシャァァァッ!!
凄まじい衝撃音と共に、地底竜は断末魔の叫びを上げ、その場に崩れ落ちた。
一撃で戦闘不能になったのだ。
「やった…! やったぞ!」
「地底竜を倒した!」
攻略隊に歓喜の声が沸き起こる。
絶望的な状況からの逆転劇。
それを可能にしたのは、またしてもルーカスの的確な判断だった。
「ルーカスさん、ありがとう! あなたのおかげです!」
ジニーが、颯太に感謝の言葉を述べる。しかし、颯太は首を振った。
「いえ、皆さんの力です。それより、この洞窟にはまだ何かありそうです。警戒を怠らないでください」
颯太は、地底竜が倒れた場所の奥に、何か人工的な建造物の一部が見えることに気づいていた。
この洞窟は、単なるモンスターの巣ではなく、古代遺跡への入り口、あるいはその一部なのかもしれない。
攻略隊は、地底竜の脅威を乗り越え、さらに洞窟の奥へと進む。
そこには、一体何が待ち受けているのだろうか。
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