第28話 アンジェロの視線
アークライトの街を見下ろす、古びた時計塔の尖塔。
そこに、一人のプレイヤーが音もなく佇んでいた。
金色の髪を風になびかせ、薄いブラウンの瞳で眼下の街並みを冷ややかに見つめる男、アンジェロ。
彼は、先日の鉱山事件に関する一連の騒動を、満足げに、そして同時にわずかな苛立ちと共に観察していた。
(ふふ…やはり面白い。あのルーカスという男、こちらの仕掛けた罠に対し、実に的確に対応してきた。偽装工作の証拠を掴み、他のギルドに提示して潔白を主張するとはね…予想以上の動きだ)
cloverの潔白が完全に証明されなかったこと、そしてルーカスへの疑念が一部で燻り続けていることは、アンジェロにとって計算通りだった。
プレイヤー間の不信感を煽り、ギルド連合の結束を乱すという目的は、ある程度達成できたと言える。
(だが、甘かったな…もう少しで、ルーカスを社会的に追い詰められたものを。あの男、思った以上に頭が切れる。そして、彼を支えるcloverの結束も、予想以上に固い)
アンジェロは、ルーカスが単なる強力なプレイヤーではなく、このゲームのシステムに深く精通している「スタッフ」であると、もはや確信していた。
そうでなければ、あの異常なまでの状況分析能力、的確すぎる指示、そして時折見せるシステムの穴を突くような行動は説明がつかない。
(あの男さえ排除できれば、このゲームの攻略、いや、T国の目的達成は大きく前進する。ジニーのようなリーダーも厄介だが、ルーカスほどの脅威ではない)
アンジェロは、T国のエージェントとして、このデスゲームに送り込まれた。
彼の任務は、プレイヤーたちを混乱させ、日本政府に圧力をかけ、最終的に海洋権益を譲渡させること。
そして、その過程で、ゲーム内に存在する可能性のある「敵対勢力(NEED&luxuryのスタッフ)」を特定し、排除することだった。
ルーカスは、まさにその排除対象の最有力候補だった。
(力押しで潰そうとしても、あの男には通用しないだろう。前の戦闘でそれは証明された。ならば、もっと狡猾に、彼の弱点を突くしかない…)
アンジェロは、これまでに集めたルーカスに関する情報を頭の中で整理する。
彼の行動パターン、戦闘スタイル、そして彼が大切にしていると思われるもの…。
(彼は、あのcloverというギルドの仲間たちを、特に気に掛けているように見える。あの初心者ヒーラーの少女、彼に気があるらしいダンサーやタンカー志望の女…ふむ、利用価値がありそうだ)
アンジェロの口元に、冷酷な笑みが浮かぶ。
人の心や絆といったものを、彼は目的達成のための道具としか見ていなかった。
(ルーカス自身に直接手を出すのではなく、彼の周囲から崩していく…例えば、彼の仲間を人質に取るとか、あるいは、仲間同士を争わせるような罠を仕掛けるとか…精神的に追い詰めれば、どんな強者でも隙を見せるものさ)
アンジェロは、新たな、より悪質な計画を練り始めた。
それは、これまでの偽装工作や妨害とは次元の違う、人の心を踏みにじるような非道な策略だった。
(T国本国からは、早期の結果を求められている…逢沢とかいう内部協力者も、どこまで信用できるかわかったものではないしな。私が主導権を握り、確実に任務を遂行しなければ…)
アンジェロは、眼下の街で活動するプレイヤーたちを、まるで駒か虫けらのように見下ろしながら、次なる一手について思考を巡らせる。
彼の視線は、何も知らないcloverのメンバー、そしてそのリーダーである颯太(ルーカス)へと、冷たく、そして執拗に向けられていた。
静かな夜の闇の中、アンジェロの孤独な影が、アークライトの街に不吉な予兆を投げかけていた。
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