君じゃない君がいい⑥
涼風視点
匠が引っかかった風船を取りに行ったため、取り残された涼風は少々ボウっとしてしまい気付けばそれなりの時間が経っていた。 公園からは少し離れ風船を取りに行った匠が気にならないこともない。
ただ改めて戻るのも変だと思い街並みを眺めながら歩いている。
―――さっき温かい飲み物を飲んだはずなのに完全に身体が冷めちゃったじゃない。
―――全身にカイロでも張り付けておかないと駄目なのかも。
脱いでいたコートを再び羽織り両手を擦る。 冷えた手は乾燥していてすぐにハンドクリームを取り出して塗り付けた。
「それにしても匠くんは風船を取った後私を探そうとしなかったのかしら?」
匠のことは異性としては見ていないが、好かれて嫌なわけでもない。 というより、匠の無邪気な笑顔は子供っぽくはあっても誰にとっても好感が持てるものだろう。
「涼風さんも今一人で外出しているじゃないですか、か・・・」
―――一人でクリスマスに外へ出るわけがないでしょう。
―――リア充ばかりの街で一人だなんて笑われ者になるだけ。
―――・・・それでも外へ出たのは一つの希望を信じていたから。
―――あの人に会えるかもしれない、って。
歩いていると大きなクリスマスツリーを発見した。
「綺麗・・・」
装飾が輝いており思わず釘付けになる。
―――こんなに綺麗なクリスマスツリーを一人で見ているなんてね。
周りにはカップルが大勢いて何だか一人でいるのが馬鹿らしく思えてくる。 もう帰ってしまおうかしら、そのようなことを考えていると近くから声がかかった。
「・・・涼風さん」
「・・・!」
その落ち着いた優しい声に鼓動が跳ねる。 見るとそこには一人の男性が立っていた。
「要壱、くん・・・?」
尋ねると要壱は柔らかい笑みを浮かべた。
―――・・・私がずっと会いたかった人。
―――帰ろうかと考えた途端、本当に会えるなんて。
気持ちが沈んでいたところから出会えた喜びで心臓の音が聞こえるくらいに高鳴っていた。 涼風はゆっくりと向き合った。
「何か凄い格好をしてるね」
「このコートがあるだけで十分よ。 寧ろチグハグになっているかもしれないけど」
「仕方ないと思う。 折角だしこれでも付けて」
そう言って要壱は自分が巻いていたマフラーを解き涼風に巻いてくれた。
「いいの? ありがとう・・・」
要壱の匂いを感じ恥ずかしくなると顔を埋めた。
「要壱くんに本当に会えるだなんて思ってもみなかった」
「俺もだよ」
「・・・この後時間はある?」
上目遣いで尋ねると要壱は少し複雑そうな顔をした。 涼風と要壱は特別に付き合っているわけではないし、クリスマスの今日に約束をしていたわけでもない。
あくまで偶然出会ったわけでこの後予定が入っていてもおかしくはないのだ。
「・・・難しい、かな?」
尋ねると要壱は軽く首を横に振る。
「いや、大丈夫」
「本当に?」
「・・・うん」
「また元カノのことでも考えていたんじゃない?」
そう言うと要壱は軽く俯いた。
―――要壱くんは先日彼女と別れたと聞いた。
―――気になるけど詳細は聞いていない。
「・・・でも大丈夫。 俺も前を向かないといけないから」
「・・・そう。 無理はしないでね」
二人は一緒に歩き出した。 匠と歩いていた時とは違う高揚感。 ただ隣を歩いているだけで何故か楽しくて仕方がないのだ。
―――私は要壱くんのことが気に入っている。
―――彼は大人で包容力もあるからまさに私のタイプ。
―――・・・そんな要壱くんが彼女と別れたと聞いて安心した私は悪い女なのかしら。
「どこか行きたいところはある?」
「特に会う約束もしていなかったからどうしようか。 イルミネーションを見るにしても点灯までまだ時間は結構あるし」
この後も何度か言葉を交わしたが要壱はどこか上の空だった。 それが気になり涼風も胸が痛む。
―――・・・やっぱりまだ未練があるのね。
そんな要壱の手を優しく握った。
「・・・!?」
要壱は驚いて手を咄嗟に引こうとするが、それを止めるようにキュッと握った。 すると要壱は落ち着いたのかしばらくして握り返してくれた。 それがとても嬉しかった。
「私ね。 要壱くんといると本当に心地がいいの」
「・・・うん」
「だから少しずつでいい。 少しずつでいいから私を見てほしい。 銅像のように凍り付いてしまった心は私が少しずつ溶かしてみせるから」
―――要壱くんが前を向こうとしているのならその時間を大切にしていきたい。
涼風は立ち止まり要壱と向き合った。
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