君じゃない君がいい
ゆーり。
君じゃない君がいい①
望愛視点
―――今日は待ちに待ったクリスマス!
―――絶対いい日にしてやるんだからッ!!
バッグを持ち玄関前の鏡で最終チェック。 この日のために何日も前から準備しておいたため気に入らないところはない。 望愛にとってはいつもよりもかなり朝早く、といっても一時間程早く起きて万全だ。
もっとも昨夜はなかなか眠れなかった。 遠足へ行く前の小学生みたい、そのようなことを考えているうちに次第に眠りに落ちた。
「髪型よし! メイクよぉしッ!! そして大きなフリフリリボンも決まってるぅ!! 写真撮ろー」
今望愛が身に着けている服はピンクと黒がメインのフワッとしたワンピース。 いわゆる地雷系ファッションと言われるもの。
もちろん本人はそのようなつもりはないがただ着たい服を着たらこうなってしまうのだから仕方がない。 寧ろそのようなファッションを売っているのに着たら駄目みたいな風潮が意味が分からない。
着たいものを着てやりたいことをする。 それが望愛の基本的思考。
「写真もいい感じに加工! 続けて投稿ッ!!」
ポチッと自撮り写真を早速ツウィッターに投稿するとすぐさま反応が来た。 なるべく加工せず自然体なのが望愛のこだわりで、正直自身の容姿には多大の信頼を寄せている。
“ノアちゃん今日も可愛いねー”
“もしかしてクリスマスデート? お相手が羨ましい”
“可愛過ぎる。 ノアちゃんのお洋服になりたい”
いつも通りのいい反応にいい気分になる。
「本当は一人一人に丁寧に返信していきたいところだけど今はイイネだけで勘弁ッ!」
―――まぁ、分かっていたけど絶対に外は寒いよねー・・・。
―――でもお洒落は我慢!
―――上着なんて着たら折角の可愛いお洋服が見えなくなっちゃう!
意気込みをして寒い外へと飛び出した。 予想通りではあるが、気分が上がっているためか寒さをあまり感じない。
「今日は年に一度のクリスマスだもん! だから一つくらい奇跡が起きてもいいよねー!」
この日のために念入りに予定を作って準備をしてきた。 だがクリスマスだからといって予定は一切ない。 行きたい場所ややりたいことはあるが確定事項ではないのだ。 それに当てがないわけでもない。
望愛にとってやりたいことの一番は既に決定しているためそれを実現するために全力を尽くす。 笑顔で歩いていると着信が鳴った。
ウキウキ気分で相手を確認するが、望む相手ではなかったことで一気にテンションが下がった。
「・・・また暖か」
暖は望愛の元カレである。 向こうから振ってきたのにもかかわらず最近やたらと連絡が来る。
「本当に鬱陶しい。 一体何が目的なの? ・・・着信拒否にしていない私が悪いか」
未練があるわけでもないのに何故か着信拒否する気になれなかった。 だがこうして連絡が来ると鬱陶しくて仕方がない。
“今何してんだ?”
復縁を求めているわけでもなく何がしたいのか分からない。
―――別れた直後ならこういう他愛ないメッセージにも返事していたけどさ。
―――特に進展するわけでもないならもう連絡してこないでよ。
からかわれている気分になり不快だった。 頻繁に連絡が来るのはおそらくクリスマスに寂しさを紛らわそうといった理由だろう。
ただそれなら『会いたい』でも『遊ぼう』でも言えばいいのにと思うが、それは言ってこないのだ。 もし新しい彼女でもできていたら連絡してくるわけがないため余計に不可解だ。
―――都合のいい女扱いされてもハッキリ言ってウザい・・・。
苛立ちながらも移動を再開する。
「もう別に私が何していたっていいでしょ! アンタはもう関係ない! 去った者はもう追わない!! 私に興味なくなった人なんて知らないもんねー。 ・・・痛ッ!!」
スマートフォンを見ながら歩いていたせいで人とぶつかり転んでしまった。
「おい、気を付けろ。 歩きスマホなんてしているからそういう目に遭うんだ」
特に助けるわけでもなく当たった男はすぐに去っていった。
「・・・もう一体何なのよ。 あの言い草はわざとぶつかってきたっていうことじゃん! 確かに歩きスマホはしていたけど、わざわざぶつかってこなくてもよくない!?」
そこで膝がヒリヒリしていることに気付いた。
「って、血が出てるしぃ!! 頑張ってタイツを履かずに来たのにー!」
―――でもタイツを履いて破けなかったと思えば・・・。
怪我したところを早速写真に撮ってツウィッターに投稿した。
『転んで怪我しちゃった(´;ω;`) 痛いよぅ(>_<) 折角のクリスマスなのに神様は私に罰を与えるの?(´;ω;`)』
少しすると早速反応が来た。 どれも温かい言葉で望愛を心配してくれる中心無い言葉も発見する。
“はいはい、かまってちゃんかまってちゃん”
“わざわざ顔を写す必要ある?”
“怪我したならSNSなんてやらずにさっさと応急処置しろよ”
それらの言葉を見てスマートフォンをしまった。
―――そういうことを言ってくるのは可愛い私に嫉妬している女子たちなんだろうな。
―――あぁ、可哀想。
そんなこんなでようやく目的の場所へと到着した。 チャイムを鳴らすことなくある家の前でしばらく待っていると一人の男が出てきた。
「要壱くん! おはよッ!」
「・・・望愛か」
要壱は望愛を見て聞こえないくらいにボソリと呟くと不機嫌そうに歩き出した。 スルーされるも望愛は要壱の隣に並ぶ。
「要壱くん、今日もカッコ良いね! 折角のクリスマスだしどこかへ一緒に出かけない?」
「・・・特に予定はないけど二人きりで出かけるっていう選択肢だけは絶対にないな」
―――今日初めて声をかけてもらえた!!
―――でも・・・。
その言葉はなかなかに冷たく望愛の心に突き刺さる。 だからといって簡単に諦めるなら気合いを入れてここまで来てはいない。
やりたいことの第一位は要壱がいなくては成り立たない、というよりも、要壱と一緒にクリスマスを過ごすことこそが望愛の望みであるのだ。
クリスマスの約束なんてしてくれないと思っていたため当日に電撃で訪問した。 望愛は生来メンヘラ気質で依存性が高い。 普段なら自分を気に入って優しくしてくれる人を好む。
だがこんなにも可愛い自分に一切振り向こうとしない要壱が逆に気になり彼に興味を持ち始めた。
―――要壱くんの攻略はなかなかに難しい。
―――難攻不落なのがまた燃えるよね!
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