魔法の洞窟 前編

ジーニーに殺された女子高生の家に来た。


正直、困惑している。


自分が何をしたいのかすらわかっていない。


女子高生の遺族に話を聞くことで何になるというのだろう、警察の情報網の方がマシな情報が手に入る。


今さらジーニーや死の真相に興味は無い。

なのに、何故だろう。


強烈な低気圧が頭を揺する。


それにしてもこの家に人は居るのだろうか、その家には生活音は無く、ポストから飛び出た大量のチラシが風に靡いていた。


しばらく家をじっと眺めていると人が出てきた。

父親だろうか、こっちを見ている。


そして、彼は怪訝そうな顔をして近づいてきた。

「あの…どちらさまでしょうか?」


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「はい、予備校の帰りに、ええ、その、」


「亡くなられたのですね。」


「…はい。」


女子高生は夕暮れに予備校の帰りに路地裏で殺されたらしい。

もちろん死因は銃。

ジーニーは必ず被害者の心臓に銃を一発だけ撃って事件現場から立ち去る、そして日本に現存してはいけない種類の弾だけが事件現場には残る。


ジーニーはどこから銃と弾を手に入れて、人を殺し回っているのだろうか。


そんなことを考えていると、女子高生の父親が申し訳無さそうに言った。

「すみません、1本吸ってもいいですか?」


「ええ、勿論、ご自分の家なのですから、いつでもどうぞ」

そう言うと彼はたどたどしく緑のタバコの箱をポケットから取り出し始めた。

中から白い、1本のタバコをつまみ、に火を付け始めた。


言うべきだろうか。


「差し支えなければ、貴方の…同僚の話を聞いてもよろしいでしょうか?」


不意を突かれた。


正直聞かれたくなかった。

俺はこの父親に警察であることを伝えていない。

何度かの汚職事件と殺人ジーニーが決め手になり、市民の警察への不信感は高まっている。

何よりも俺は警察としてこの事件に関与する気は無いからだ。

どこまで話せるかを考える。


しばらくの沈黙の後、階段を降りる音が響く。


女子高生の姉が二階から降りて来たのだ。


「ねぇ、お父さんその人誰?」


困り眉を浮かべて彼は答えた。


「うーん…説明するとややこしくなるから後でな」


相手の話は聞けた。

娘がいる中でこれ以上俺の話を追及はしないだろう、そんな空気だった。


すかさず口を挟む

「すみません、少し長居しすぎてしまいましたね…これは私の連絡先です。何かあったらまた」


自分でも無愛想に感じる程早々に立ち去った。


家を出ると天気雨が照りつけていた。

高架下のコンビニでタバコを買うと、知っている顔が窓越しに俺を覗いていた。






女子高生の姉だ。


外に出るとなんの前置きも無く、彼女は言う。

「あいつは不登校だったの」



それがどうした。


「…そうだったんだね。」


白い、湿った太陽に照らされる彼女がとても不気味に見えた。


「6月の後半位からね、虐めにあっていた訳では無かったみたいだけど、まぁクラスに居づらかったのでしょうね。」


夕暮れに予備校の帰りというのが引っ掛かっていたが、合点がいった。


「それなりに良い子だったと思うわ。まぁでも今の社会では優しすぎたの。」


身近な死が近い社会になった。

ジーニーに遠い親戚が殺されたなんて人間は山のようにいるだろう。


適当に仮説を立てるとすれば彼女の、ジーニーによる死に身近な人の死が関わっているのかもしれない。


巷で流行っている都市伝説では葬儀会社デス・十三サーティーンが葬儀を増やして稼ぐ為に大殺人を繰り広げている事になっている。


俺もそういうことにする。


ジーニーはわざわざ葬儀に出向くような優しいやつを狙って殺してる。

実例:アイツと女子高生だけ

理由:二人とも優しかった

それだけ。

これで納得。

さあ家に帰ろう。

これ以上は無駄だ。






…そういえばアイツから親族の話は一度も聞いた事が無かった。

葬式に並ぶ人間も顔見知りばかりだったことが印象に残っている。


ただ、ひとりを除いて。




仮に






仮にこれがだとしたら。

次のターゲットは誰なのだろうか。


背筋に寒痒さが走る。






殺人的な点がカーブミラー越しの直線に見える。

その点はみるみる立体感を帯びて行き、銃のような形に変貌する。






次の瞬間、鏡は割れて砕け散った。

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殺人ジーニー 名無しのジンベエ @nanashinozinbei

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