非モテ優遇コミュニティ
ちびまるフォイ
非モテの付加価値
「なんかポストに入ってる。なんだこれ?」
封筒を開けるとメタリックなカードが入っていた。
『非モテ免許』とある。
「こんな不名誉な免許出した覚えないんだが……」
捨てようと思ったが、一応公的な身分証明書っぽい。
扱いに困ったまま財布に忍ばせていた。
ある日、電車に乗ったときのこと。
「今日も座れないだろうな……あれ?」
席が空いていた。
これだけ混んでいるのに一部だけ席が空いている。
それもそのはずで、席には非モテ優先席とある。
「座って良いのかな?」
席に座ると財布の非モテ免許が席とリンク。
非モテ免許を所持していることを認識する。
「ら、ラッキー。非モテでよかった!」
激混みの電車の中でも自分だけは優雅に着席の旅。
非モテなんて良いことないと思っていたけれど、
世界の幸福と不幸とはいいバランスになっているようだ。
優雅な出勤を終えて会社につくと、いきなり上司の呼び出し。
すでに胃がキリキリと痛み始める。
「じょ、上司さん……話ってなんでしょうか……?」
「ところで聞くが、君は非モテかね?」
「え? ええ……不本意ながら」
「ならば年収1000万アップだ」
「なんで!?」
「非モテという社会的弱者には
政府から補助金が出るんだよ、おめでとう」
「や、やったーー! 非モテでよかった!」
「あと、非モテは週休3日になる。好きな曜日を1日休んで良い」
「マジですか!!!」
「私も非モテになりたいものだよ……」
「ふふふ。非モテは生まれついてのものですから。
顔が良くて、仕事ができる上司さんには非モテは難しいでしょう」
「なんでドヤるんだ」
年収アップに加えて休日プレゼントのハッピーセット。
非モテで本当によかった。
「それじゃさっそく今日は非モテ休暇取得します!
ちょうどやりたかったゲームをやりたいんで!」
「いいなあ、非モテ……」
イケメンの同僚たちは羨ましそうにしている。
異性との交流というカードを切ったからこそ得られるメリットなのだ。
家につくと扉の前にはデカい段ボールが置き配されていた。
「なにか頼んだっけ?」
宛先は政府からだった。
びくびくしながら中を開封すると、食べ物やカタログギフトがぎっしり。
同封されている手紙には非モテ配給品とある。
「非モテだとこんなものまでもらえちゃうのか!! 最高!!」
お金がたくさんもらえるし、消費税も免除。
生活に必要な消耗品は政府から配給される。
「非モテに生まれてよかった!!」
最初は非モテを認めることが恥ずかしかったが、
今となっては非モテであることが誇らしい。
非モテを押し出して人生を謳歌していると、
しだいに自分の周囲でも変化が起き始めた。
「ねえ、あなたもしかして非モテ?」
「ええそうです。ほら非モテ免許もあります」
「まあすごい! そんな非モテって素敵だわぁ」
「え? あちょっと!」
「こんなにたくましくない体。非健康的な白い肌。
セットしてない髪の毛、伸ばし放題のヒゲ……もう最高♪」
「で、でへへへ」
「私と付き合わない? いいでしょう?」
非モテであるはずなのに、グラマラスな美女が迫ってきた。
もうこんなモテ展開には免疫がなく、すでに鼻の下は伸び放題。
「私と付き合ったらこのカラダ、好き放題できるのよ?」
「むほほほ……!!」
「もうあなたは非モテなんかじゃないわ。
少なくとも私にとっては理想の素敵な男性。好きよ」
「ぶひぃぃぃ」
鼻息あらくなって目がチカチカしたそのとき。
非モテ免許がアラートを上げる。
『"好き"を検知しました。非モテ詐称の可能性があります』
機械音声が自分に冷静さを取り戻させる。
「あっぶねぇ!! 非モテじゃなくなるところだった!!!」
「ちょっと、なんで逃げるの?」
「俺みたいな非モテに、あなたみたいな美人が寄り付くわけ無い。
おおかた非モテ特権が得たいだけだろう! 騙されるか!」
「チッ。非モテはちょろいって聞いたのに」
「ちょろいはちょろいが、非モテを失うつもりはない!」
すぐにその場から逃げる。
その場はなんとか逃げ切ることができたが今後はどうなるか。
今回は露骨なハニートラップですぐに気付けた。
もし時間をかけた巧妙な作戦だったら、すっかり騙されていた。
非モテを失えば一気に毎日使えるお金は減り、休みは土日だけになり。
優先席も座れなくなれば、ゲーム機の優先抽選非モテ枠も使えない。
非モテのままの人生と、そうでなくなったときの人生。
どちらが充実しているかは明らかだった。
「これからは非モテを守り続けなくちゃいけない。
だがお金を得たことでモテ始めてしまう……!」
街はすでに刺客だらけに思えてきた。
非モテ免許を強引に強奪しようとする人もいるかも。
もう安心して非モテを振りかざせないかもしれない。
「非モテのような弱者が普通に生活できる場所はないものか……」
引っ越しを考えたとき、非モテだけの物件情報を見つけた。
「非モテ特区!? 非モテだけの場所!?
こんなユートピアがあったのか!!」
すぐに引っ越しの準備を整え、非モテ特区への引っ越しを決めた。
非モテ特区は非モテだけしか入場ができない特別な場所。
そこでは非モテ権利ほしさに騙し騙されるようなこともない。
誰もが非モテだから。
「もうすぐ非モテ特区が見えてくる。
これもう非モテ以外におびえなくていいんだ」
電車の窓を眺めながら、近づいてくる非モテ特区を目に収めようとしていた。
「おい」
声をかけられて顔を上げると、そこには非モテが立っていた。
「そこ優先席だぞ? 席を空けろよ」
「非モテなのにそんなことも知らないのか?
非モテなら優先席座れるんだよ」
「そんなことは知ってる。ここは非モテ専用車両だからな」
「え? ならこの優先席は……」
「"地図が読めない人"の優先席だ。早く席をあけろ」
男は方向オンチ免許を見せつけた。
ゆずられた席に座ると男は言いのけた。
「非モテだからって偉そうにするな。
非モテでさらに社会的な弱者が非モテ特区にはいっぱいいるんだ」
窓から非モテ特区が見えてきた。
駅に出るなり、非モテしか権利のない自分は過剰な乗車料をせびられた。
「機械音痴、服のセンスが無い人は駅員まで!
乗車料を割引いたしまーーす」
非モテ特区では非モテなんて権利は当たり前。
そのうえどれだけ自分のダメさが認められるかが大事だと知った。
「リズム音痴は……リズム音痴は免許ありますか!?」
これから特区での音痴資格を得るまでの長い修行がはじまるーー。
非モテ優遇コミュニティ ちびまるフォイ @firestorage
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