第8話:閲覧補佐、年齢不詳
「この子が今日から、あなたの閲覧補佐です」
そう言われて案内されたのは、子どもだった。
身長は140センチに届かない。
制服は明らかにサイズが合っていない。
茶色の髪を後ろでまとめ、表情は薄い。声も小さい。
「よろしくお願いします」
「私、補佐係のレラです」
その声は、妙に落ち着いていた。
目線が合った瞬間、背筋にぞくりとした感覚が走る。
⸻
初日の作業。
渡されたのは、1991年に発禁になった写真集。
レラは黙ってページをめくりながら、記録を読み上げていく。
「本書は、当時の視線文化を象徴する構図が多数含まれています」
「特に、“カメラに気づいていない”という演出が……効果的ですね」
彼女の指は細くて白い。
ページに触れる動きが、どこか“触れてはいけないもの”に慣れている。
⸻
途中で僕が手を止めると、レラは首をかしげた。
「……読めないんですか?」
「いや、ちょっと、その、刺激が強いというか」
「大丈夫です。見たものは、記録すればいいだけですから」
淡々とした口調。
なのに、その視線はどこか底が見えなかった。
⸻
夜。
残業していると、レラがまだ残っていた。
「あなた、発症しかけてます」
「……は?」
「脈拍と視線の動き。あと、ページの開き方」
「記録員としては、まだ浅いですね」
言葉に詰まっていると、彼女は近づいてきた。
「……よくあるんです」
「見た目がこうだから、みんな油断します。
でも、私は記録を守るためにここにいます。
“どこまでなら壊れないか”を、知っているだけです」
⸻
ページの角を指で押さえながら、彼女はこう言った。
「読んでください。続き」
「……責任は、私が持ちますから」
⸻
次のページに何が描かれていたのか、
僕は覚えていない。
でも、あの夜から、
彼女が“人間ではない”という直感だけは、確かになった。
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