第10話

その4/決裂



「わかったわ。私、謝るわよ。志田君を寝取ったこと。ごめんなさい」


ジュリは手のひらを返したかのように、あっさりとアユムに謝罪し、頭を下げた。


”ここは一旦謝って、アユムの気が収まるか様子を見る…”


まさしくジュリは腹の中で舌を出していた。

しかし、アユムにはその舌がはっきりと目に映っていたようだ。



...




「…あなた、おなかの中で舌出してるのが透けて見えるわよ。まあ、いいわ。ちゃんと認めて口先だけでも謝ってくれてた訳だし」


「じゃあ、あなたの職席明記して一筆書いて。今アユムが言った件、承知はしてるけど口外しないと」


「それはできないわ。私が口裏合わせしてると認めたら、在職中の職務に傷がついたことになるわ」


「なら、私はずっと怯え続けなきゃならないじゃないのよ!」


「ええ。私が退職したあと告発したって、一元OLの立場じゃ意味ないよね。けど、この後社内の誰かがジュリの”それら”を摘発するかどうかは、私の関知するところじゃないわ」


アユムはわずかに口元をほころばせ、勝ち誇ったかのような目線でジュリに送っていた。



...



「ふざけないで!あなた、データを残しているのね!」


さすがのジュリも、アユムのしたたかさに慌てた様子は隠せなかった。


「さあ…。想像に任せるわ。じゃあ、今日は時間とってもらってありがとう。私は帰るわ」


「待ちなさいよ!」


ジュリは立ち去ろうとするアユムの肩を左手で押さえると、もう一方の手で彼女の手にしたバッグを奪い、室外に走って出た。


「何するの、ジュリ…、返して!」


アユムは階段を上ってい逃げるジュリを追いかけた…。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る