本当の気持ちに気付いたから
第27話 あの夢のわけ
――ああ、これは夢だ。
そうわかったのは、前にも一度、この夢を見ているから。
幼いわたしが、何処かの神社の境内で駆けている。誰かを見付けて、嬉しそうにそちらへと向かっているのだ。
そして、向かう先の誰かはぼやけて見えない。
そのはずだった。
『また来たのか、心護』
「うん! えっとね、あおさまにあいたかったの!」
『そうか、嬉しいよ』
「えへへ〜」
違う。前の夢とはだいぶ違う。同じ夢であるはずなのに、相手の顔が、青様の表情がよく見える。
(あれは、青様だったの?)
今よりも少年に近い年格好の青様が、幼いわたしの相手をしている。不器用な笑顔で、大事なものを扱うように接している気がして、なんだかこちらの胸が痛くなった。嬉しいんだと思う。
『――心護』
「なあに?」
『大きくなったら、また会おうな』
「? ……うん!」
またね、と手を振り幼いわたしが母親のもとへ駆けて行く。それを見送る青様の顔は、わずかに憂いを帯びているように見えた。
(そっか……。わたし、青様と昔会ってたんだ)
色々と腑に落ちた。青様の謎の発言の意味とか、そういうものは、ここに繋がっていたんだ。
「……言わなきゃ。もう、自分の気持ちを」
周りがぼんやりと明るくなっていく。わたしはもうほとんど見えなくなった神社の境内を振り返り、誰もいないその場所に別れを告げた。
❀❀❀
「ん……?」
ぼんやりと目を覚ますと、見慣れた板張りの天井が見える。まだ完全に目覚められなくてぼんやりとしていると、遠くから足音が近付いて来た。
「……まだ眠っているのか」
枕元に腰を下ろした青様が、ぽつりと呟く。
「無茶ばかりさせている、な。……令和の世で平穏に暮らしていればよかったのだろうが、すまない」
珍しい、と始めに思ってしまった。そんな殊勝なことを言うなんて、と。
でも思い出してみれば、彼はただ強引なだけではなかった。朝花ちゃんと夜鳥くんが慕っているのも頷けるくらい優しくて、照れ屋なだけ。ツンデレなのかな。
「……」
そんなことを思いつつ寝たふりを続けていると、不意に視界に影が差す。何だろうと思った直後、額に何かが触れた。その感触が、宵月の呪いを解いた時のものと同じだと思って、思わず目を開ける。
「……っ!」
「あ……」
ばっちりと目が合ってしまった。その瞬間にわたしは自分の顔が真っ赤に染まるのを自覚したけれど、同時に青様もみるみるうちに顔を赤くする。
「お、起きていたのか! いつから!?」
「え、えっと……青様がこの部屋に来る直前……?」
「最初から!? ……まじか」
口元を手で隠すように押さえ、視線を逸らす青様。そんなことをするから、わたしの推測は確信に変わってしまう。
わたしは胸の奥がドキドキと絶えず大きな音をたてているのを聞きながら、上半身を起こした。そして、何気ない風を装って口を開く。
「わたし、眠ってしまっていたんですね。ここまで運んで下さったんですか?」
「え? あ、ああ。よく眠っていたぞ、少しは疲れが取れたか?」
「お蔭様で。……青様は、お休みになられましたか? それに、朝花ちゃんと夜鳥くんは……」
「俺も一晩休んだ。朝花と夜鳥も、それぞれ休んだはずだ。あいつは封じたから、突然敵が襲って来ることを案じる要もないからな」
青様の言葉の端々に、わずかににじむ悔しさや辛さの感情。一晩寝たと本人は言うけれど、少なからず自ら封じた宵月という弟のことを考えなかったわけではないと思う。
(あなたの判断は、きっと間違っていない。いつか、そう言えたらいいな)
今はまだ、傷が新しくて触れるのに躊躇いがある。わたしたちは皆、きっともう少しだけ時が必要なんだ。
「わたしは、どれくらい眠っていたんですか?」
「一日半、というところか。もうすぐ夕刻だから、二日間に近いくらいだな」
「そんなに……。青様」
「ん?」
「あとで、お話があります」
真っ直ぐに青様を見つめ、わたしは言った。顔が熱くて、沸騰しそうだ。
わたしの顔をきょとんと見ていた青様は、ふっと目を細めると「俺もある」と呟いた。
「青様も……?」
「だが、まずは腹ごしらえだ。飲まず食わずで眠り続けていたんだから、何か食え。話はそれからだ」
青様に言われて、わたしは空腹であることにようやく気付いた。ぐぅとお腹が鳴って、恥ずかしくて俯く。
するとくくっと小さく笑った青様が、わたしの頭を軽く撫でた。
「朝花たちに、お前が起きたことを伝えて来る。それから、何か軽い、食べられそうなものも持って行くように伝えるから、待っていてくれ」
「えっ」
立ち上がりかけた青様の服の裾を、思わず掴んでしまった。振り返った青様に「どうした?」と心配そうに尋ねられ、心臓がぎゅっと苦しくなる。
「何処か痛いのか?」
「何でも、ない、です。大丈夫、痛いとかないです」
「……なら、良いが」
「――っ。早く、戻って来て下さいね」
それだけ口にするのが精一杯だった。目を丸くしている青様から背を向けて、顔を洗って着替えもするために立ち上がる。
「か、顔洗ってきます!」
「あ、おいっ」
ぱたぱたと部屋を出たわたしは、庭の井戸水をくんで顔を洗った。
(――よし、今度こそ言わないと)
さっぱりとしていて、頭は冷えたように感じられた。わたしはようやく少しだけ気持ちを落ち着かせ、部屋に戻るために踵を返した。
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