第一章 はじめまして、ミラクル・ユニバース。

第1話 祝福、出立のとき








銀河共通のデータベースで「連星の子」と調べると、以下のような説明がなされているのが分かる。






連星の子【れんせいのこ】

銀河系に生息する生体群。


概要:

「連星の子」という呼称は銀河歴2457年から使用例が確認されている。この呼称は惑星No.42(アレティア・プラネット)でおこったと言われているが、定かではない。

「旅団」と称される群れを作って銀河系を漂っており、不定期に二人組で惑星に降り立っている。この二人組の関係について、双子であるというのが最も有力な説だが、この説を提唱したレネ・ヴィンセント氏(惑星No.91 フォーチュン・プラネット)は「彼らのことについては、近所で遊んでいた子供たちから聞いた」という旨を公言しており、完全に信用するには不明瞭な点が残る。


各惑星に伝承として連星の子に関するとされている逸話が残っているが、依然として不可解・不明な点が多く、最も解明が進んでいない星間種族である。



関連:

星の子伝説【ほしのこでんせつ】

惑星No.213(ワンダー・プラネット)に伝わる民間伝承。


概要:

(原文ママ)

ああ泣かないで、大事な片割れに先に行かれてしまった子。あなたがその子に強く「戻ってきてほしい」と願ったのなら、奇跡は起こる。きっと近いうちに、その子は星の輝く夜空から「星の子」になって降りてくるわ。

けれども、奇跡は儚いの。

星の降る夜、その子と一緒にほんとの心でお星様にお願いできなきゃ、その子はきっとお空に昇って二度と戻ってこないのよ。






等々。

彼ら惑星種族…それも人類種の技術を以てしても、カレらについてはわからないことが大半を占めているらしい。






さて、ここには載っていないみたいだから、一つ付け足しておこう。


連星の子たちは、当然のことではあるけれど、

誰もが天文学的な確率をすり抜けれるほど運がいい、というわけではなくて。

本来の片割れと生きているうちに再会できなかった双子たちはたくさんいる。

そういう、いわば「訳アリ」の双子たちは、自分たちがし遂げられなかった希望を次の双子たちに託して、限りのなくなった永遠の生の道を、同じ道を辿った双子たちと歩んでいくのだ。



…ああ、ちょうど、次の双子たちに希望が託されようとしている。













とある銀河系、宇宙空間の一隅。

目が灼けてしまうほど輝かしい光を纏った恒星——言ってしまえば、遠い昔に塵となって消え去った連星の子の成れ果て。

成れ果てがよく見えるその場所に、奇跡に恵まれなかった連星の子たちが十数人程度、集っていた。見れば、カレらは次の連星の子を送り出そうとしているところらしい。わちゃわちゃと集まった中心には、他より少し幼く見える男女の双子がいる。



「ステラ、ちゃんと全部持ったかい?ハンカチにティッシュに、…コンペイトウも忘れてないね?」


「あったりまえじゃない、シャルル兄様ったらシンパイショーね!やっと片割れをさがしに行けるってシャルロット姉様から言われて、わたし、もうみっかも前から準備してたのよ!」



自信満々といった調子で答えた双子の少女——ステラ。

その名前にふさわしいプラチナブロンドをひとつの三つ編みにして、紺色の地に白があしらわれた長袖レトロワンピースの裾と一緒に宇宙空間の無重力にふわふわ遊ばせている。


それをいぶかしげな眼で見ているのは、おそらく彼女に「シャルル兄様」と呼ばれた少年を片割れに持つ少女——「シャルロット姉様」だろう。服の意匠に、それとなく共通する装飾がちりばめられている。



「…ステラはこう言ってるけど。ライト、本当なの?あ、ハンカチティッシュ、導きのランタン…は、持ってるわね。ちゃんと全部持ってる?」



シャルロットに呼びかけられ、美しいかんばせに微笑みをたたえた少年――ライト。

片割れとそっくりそのままなプラチナブロンドを無造作に切り揃えている。

こちらも片割れと同じく、紺地に白があしらわれた長袖メンズセーラー服とひざ丈ズボンをきちっと着ている。多少トップスがぶかぶかに見えるのは御愛嬌だろう。



「三日前から準備してたのはほんとだよ。

 おれは全部持ってるけど、ステラったら、いちばん大事なの部屋にわすれちゃってた」


「…ステラ、そうなのかい?」


「そんな訳ないじゃない、シャルル兄様!

 全部持ってるもの!ハンカチにティッシュに

 コンペイトウに、………あれ?」


「だから言ったじゃん。

 ないでしょ、ステラの分の”星縁のリング”」



星縁せいえんのリング”。

連星の子にとって、コンペイトウや導きのランタンよりも大切で、一番重要なアイテム。

…というのも、カレらはこれを使わなければ惑星に降り立つことができないらしい。こちらで言うところの、宇宙服、のような感じなのだろう。


溌剌とした顔から一変して、バツの悪い顔になったステラは、顔をくしゃりとさせながらとてつもなく言いたくなさそうにライトに言った。



「ぅ………ぉ、教えてくれて、…ありがとう。

 ちょっと待ってなさい、取ってくるわ」


「あっ、待ってステラ」


「…なによ。まだわたし、何か忘れてる?」


「そうじゃなくて。

 実はおれ、ステラのも持ってきてるんだよね。

 ほら、つけたげるから手出して」



ライトの手元を見れば、そこには溌剌とした煌めきを宿す銀色のリングが。今までの会話を鑑みるに、おそらくこれがステラの分の星縁のリングなのだろう。

さて当のステラはといえば、拍子の抜けたような顔をしてから、素直に手を出していた。慣れきったその動作からは、こういうことは日常茶飯事なのだろうということが伺える。

周囲の連星の子たちの呆れたような、けれど微笑ましいものを見るような雰囲気がこの推測を裏付けていた。



「もう、先に言ってくれればよかったじゃない」


「言うより先に行こうとしちゃったでしょ。

 ……はい、つけれた。

 勝手に取っちゃだめだからね」


「取らないわよ、もう。…ありがと」


「どーいたしまして」



うやうやしく取られたステラの左手、その人差し指にリングの燦然とした銀色が輝く。同じくライトの左手人差し指にも、淡い銀色の光が呈されている。


…荷物の確認は一波乱あったけれど無事に終わって、あとは双子を送り出すだけになった。シャルルはステラの両手を自身のそれで握りしめて、シャルロットはライトの肩に手をかけて、カレらにとってはまだまだ無知な幼い双子に目線を合わせて告げる。



「ステラ、お前は一直線すぎるきらいがあるからね。いつもライトはお前を止めてくれているけれど、あまり迷惑をかけすぎないようにするんだよ」


「ライト。貴方はしっかり者だから頼りにしてるけど、たまにはちゃんとステラに寄りかかりなさいね。じゃないと潰れるわよ」



「…わかってるわ、気をつける」


「だいじょーぶだよ」











「じゃあ、」






「「星空の祝福が、貴方たちに微笑みかけますように」」



「「星空の祝福が、私/おれたちに微笑みかけてくれますよーに!」」


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