儚い逢瀬
【毎日の日課】
三つ眼と4本の腕を持つ、赤黒い男が身支度をする。
向かうは7頭の馬が待機する黄金の戦車。
「おはようございます、スーリヤ様。」
彼を迎えるのは下半身の無い御者だ。
「おはよう、か。まだ夜明け前だがな。」
フッと笑い、戦車に乗り込む。
「出発しても宜しいですか?」
「ああ、行ってくれ。」
その言葉を聞き、御者は馬を走らせる。
「時に
頬を掻き、スーリヤが問い掛ける。
「何でしょうか。」
「今日は……何曜だったかな……?」
その問いに、アルナがにこりと微笑んで。
「今日はご覧の通り水曜でございます。」
先頭に立つ馬を示され納得した。
その馬は水曜を表す馬。
戦車を曳く7頭の馬は、それぞれが曜日を表している。
「はは、どうも曜日の感覚がな……。」
「無理もございませんよ。毎日が同じ事の繰り返しですから……。」
太陽であるスーリヤに休日は無い。
曜日の感覚が狂うのも仕方のない事だ。
苦笑する太陽神を乗せ、黄金の戦車は空を駆ける。
「スーリヤ様、追いつきましたよ。」
その言葉に身を乗り出すスーリヤ。
前方に見える戦車に微笑みを浮かべた。
7頭の牝牛が曳くその戦車から、美しい女神が降り立ちスーリヤを迎える。
「お急ぎ下さいスーリヤ様!」
「分かってる!そう急かすな!」
急かすアルナを制し、急いで戦車を降りる。
だが彼は走らない。
ゆっくり歩を進め、美しい女神を見つめている。
少しでも長く……
彼女を見つめていたい……。
切なげに見つめ合う二人の距離が、少しまた少しと短くなって行く。
「ウシャス!」
「スーリヤ……。」
愛しき暁の女神ウシャスに、スーリヤは静かに近づき想いを告げる。
「ウシャス、愛してる……。」
駄目だ……。
触れては駄目だ……。
分かってはいても抗えない。
この衝動は抑えられない。
「ウシャス……」
壊れものに触れるかのように、そっと抱き締めるスーリヤ。
抱き締められたウシャスが切なげに微笑んで。
「私も貴方を愛し──」
彼女が言い切る前に、その姿は消えてしまった。
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