第43話 グッズを作ろう②

「お、おしゃぶり……?」


 突如としてコメント欄に現れたアランくん。

 そのまさかのアイディアに混乱する俺。


 だが一方、隣の母さんは興奮したように手を合わせた。


「えーなにそれ! すごいアランくん、グッドアイディア! たしかにせっかく赤ちゃんなんだもの! グッズだってそういうバブバブしたやつの方がいいわよね!」

「ば、バブバブ……? いやいやちょっと待ったちょっと待った。え、おしゃぶり? そりゃたしかにそれっぽくはあるけども……」


 なるほど中身が高校生の杉本達也であることはさておき、VTuberの花咲ベイビはれっきとした赤ちゃんだ。

 そしておしゃぶりと言えば、赤ちゃんにとってはその象徴のようなアイテム。

 であればグッズのチョイスにおける方向性としての違和感はほぼない。というかむしろピッタシだろう。


 ……が、それはあくまでおしゃぶり単体で見た場合の話。

 グッズ化して一般に販売するものとして、果たしてほぼ確実に対象年齢をオーバーしたファンのみなさんが欲しがるかと言うと――。


【コメント】

 :おおおおおおおおおおおおおおお

 :え、めっちゃいいじゃん!!!

 :さすが皇帝陛下!なんと高貴で貴重なご意見!

 :おいおい神かよ・・

 :救世主現る

 :陛下万歳!陛下万歳!

 :めちゃくちゃドンピシャなヤツきたぁあああ!!!!

 :こーれはもう決まったわね

 :よし、みんなお疲れ!解散っ!


 ……うん、なんか死ぬほど受け入れられてる。

 それどころか大絶賛で沸きに沸いてるし……え、なにこれ?


「あ、あのぉ~……みなさん盛り上がってるとこ悪いんですけどわかってます? おしゃぶりですよ? ホントに欲しいんですか……?」


【コメント】

 :はい

 :イエス!

 :くっっっっっっそ欲しい!!!

 :絶対買います!

 :ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしい

 :実用、観賞用、保存用、普及用……あと予備で5つは必要


「えぇ、どんだけ……。てか実用ってなんですか? 百歩譲ってコレクター根性で集めたり飾ったりはわかりますけど……え、もしや使う気ですか?」


【コメント】

 :もちろん(もちろん)

 :フツーに使いますけど??

 :だっておしゃぶりですし

 :逆になぜ使わないと思った?

 :べろんべろんにしゃぶる予定だが

 :おしゃぶりなら海でも山でも違和感ないしな

 :今年の夏はおしゃぶりコーデで決まり!


 いや決まり!じゃないよ。なんにも決まんないよ。

 違和感ナシどころか、むしろ全然バリバリなんだが? 海だろうが山だろうが。


 おぃいいいやっぱおかしいようちのチャンネルのリスナー!

 相変わらずいったいどういう趣味嗜好してるのかわかんねーよこの人たち! ぶっ飛びすぎだろ!


「あらあら、よかったわねたっくん。お友達から良いアイディアがもらえて。それじゃあ今度はこの流れでデザインの方にも早速取り掛かってみよっか」

「デザイン!? ちょっ、なに勝手に決定みたいな空気にしてんの? まだ別にこれで決まってないからね……?」


【コメント】

(皇アラン):フハハ!どうだ朕に感謝するがいいアカよ!これでまた朕の勝ちが一つ増えたな!!!


「いやアランくんもなに勝ち誇ってんの!? つーか勝負してた覚えもないし!」


 おいおい待て待て。え、マジでこのまま決定の流れ……?

 まさかのおしゃぶりが俺の初めての記念グッズなの?? そんな馬鹿な……。


 しかしそんな俺の困惑とは裏腹に盛り上がり続けるコメント欄及び母さん。

 こうなるとこの勢いを止めるのは至難の業だということを、俺はこれまでの配信生活でイヤと言うほど学んでいる。


「わ、わかりました。じゃあこうしましょう。とりあえずおしゃぶりはキープで、もうちょい検討してみましょうよ。まだ配信時間的にも〆るには早いですし……」


【コメント】

 :なるほど

 :まーまだ30分くらいしか経ってないしね

 :それに今なら流れもきてるしな

 :俺もようやく発想にエンジンがかかってきた気がする

 :たしかにちょっともったいないかも

 :よっしゃ!いっちょやったるか!

 :おーし、この勢いでどんどんいこう!どんどん!


 ……ホッ。

 よかった、苦肉の策だったがなんとか生き延びたか……。


 よし、あとはここからのコントロール次第だな。

 なんとか俺の方でみんなの意見をうまいこと誘導していき、最終的にはソフトランディングでもうちょい落ち着いた候補に着地する……これしかない!


 ――とまあ意気込んだものの。


 残念ながら俺はすぐに思い知ることになる。

 そんな俺の目論見が、いかにこのチャンネルにおいて甘々な考えだったかということに……。


「じゃあ改めまして、なにか思いついた方――」


【コメント】

 :前掛けはどうですか?


「お、早いですね。前掛け……ってあれですよね? 要するに赤ちゃん用のちっちゃいエプロン的な」

「いいわね。これならおしゃぶりと同じで、オシャレ用のちょい足しアイテムとして使えそう」

「うん、まーおしゃぶりがオシャレアイテムかは甚だ疑問でしかないけど……それはさておきわからんでもないかも。服目線で捉えればワンチャンTシャツ代わりになりそうかも? ……まあなんだかんだ大人が前掛け?という感は否めないけど」

「それにこれならTシャツと違って首に回して止めるだけだから、その場でサッと着られるのもポイント高いわね」

「あーね。例えばイベントの現地でグッズ買ったときって着替えようにも場所がほとんどないもんね。男なら最悪外でも可だけど、女の人ってトイレとかしかなさそうだし」

「うん。最近は事前物販もあるけど、ファンの中には予め着ていくのはちょっと恥ずかしいかも……って人たちもいるものね」


【コメント】

 :うんうん

 :ぶっちゃけ移動の電車内とかはちょいハズい

 :俺は絶対スマホから視線外さん用にしてるわ

 :でも会場に近づくにつれ車両内に同類が増えてきてちょっと安心する

 :なお幕張とかだとディズニー目当てのカップルやファミリーもわんさかいる模様

 :イベントあるあるw

 :あとゆーて男も冬はキツイ

 :たしかに。まあたまに雪の中でも裸体さらして着替えてる猛者もいるけど


「うん、こうして見ると採用ありかも。なるほど前掛けね」


 いいね、これなら少なくともおしゃぶりよりは遥かにマシだ。全然アリアリ。


【コメント】

 :おっしゃ、じゃあこの前掛けにさっきの案をミックスして戸籍謄本をプリントしよーぜ


「なぜそうなる」



【コメント】

 :哺乳瓶


「あ、ねーねーたっくんこれもいいんじゃない?」

「なになに……哺乳瓶?」

「これも日用品として使えると思って。ほら、タンブラーみたいに」

「……いやぁそれはさすがにムチャでは? 職場で哺乳瓶とかそれこそ異次元に恥ずかしいでしょ」

「そう? ママは職場でもガンガン使っていくつもりだけど」

「マジかよ……」


【コメント】

 :ライブ時の水分補給でも活躍できそう

 :数百~数千人規模で一斉に哺乳瓶を飲む空間・・

 :冷静に想像するとすさまじい光景で草

 :でも正直ちょっと見てみたいw



【コメント】

 :おもちゃのガラガラ


「あーそれもおもしろそう! もしいずれたっくんがライブとかやる日が来たときに使えそう! 合いの手とかそういう感じで!」

「カラオケのときとかのマラカスとかタンバリンみたいな?」

「そうそう」


【コメント】

 :これもライブ映えしそう

 :会場を埋め尽くすファン「キャッキャッ♪」ガラガラ×1000

 :ガラガラ(爆音)

 :うるせぇw

 :ガラガラのオーケストラで草

 :イベント会場ってかもはやとてつもなく巨大な幼稚園やんw


「うふふ、いいわねぇ賑やかそうで」

「またそんな呑気な……」


 何度も言うが大のオトナが大量に集まってガラガラではしゃぐってどうなんすかね……。



【コメント】

 :オムツ


「わぁステキ! とっても赤ちゃんっぽくてたっくんにピッタリ! そのときはオムツにでっかくたっくんの顔をプリントしましょ♪」

「いやテンション高っ! どんだけ興奮してんの!? ――つーかイヤだよ! 恐いよ自分の顔がプリントされたオムツとか! しかもそこにワンチャンおしっことかウンチが投入されるんでしょ!? 最悪すぎるよ!」


【コメント】

 :それはたしかにw

 :投入てww

 :そもそも自分の顔に他人の股間や尻が押し当てられる時点でなかなかエグい

 :ある意味でものすごい特殊なプレイやん


「そうでしょう? どう考えても気分悪いですって……」


【コメント】

(シェリー・ジャスティス):そんなことありまセン!むしろ興奮しマス!


「おぉいなんか急に変な人混ざってきたぞ!! やめてくださいご退出願います!!」


【コメント】

 :草

 :変態登場

 :ここぞとばかりにwww

 :シェリーちゃん「ずっとスタンバってました」


「だいたいオムツじゃさっきの前掛けと違って履いても見えないからファッションにもなり得んでしょ……完全にただの自己満じゃん」

「でもグッズとかコレクションってそういうものじゃない? 見せるのが全てじゃなくて集めることに価値があるっていうか」

「まあそれはそうだけども……」

「それに実用的でもあるし。リアルな話、長時間配信してる人とか途中でトイレに立たないために履いてる人もいるらしいわよ」

「え、そうなの?」


【コメント】

 :せやね

 :たまに聞く

 :たっくんもそれ履いて耐久配信しようぜ!


「あーいいわねぇ。それで実際にお漏らししちゃったらママが交換してあげる流れね」

「恥辱以外の何物でもない」


【コメント】

 :wwwwwww

 :wwww

 :リアルオムツ交換はさすがにおもろすぎるw


「けどそれはそうと、これだったらもしかするといつか案件も来るかもしれないわよ?」

「案件? オムツの?」

「うん。オムツってよくテレビでもCMしてるじゃない? 赤ちゃんがオムツ履いてキャッキャッってハイハイして。あんな感じでたっくんもそのうち全国ネットデビューあるかも」

「あー」


【コメント】

 :割とありそうな話で草

 :なくはない……か?

 :最近のVTuberの勢いなら全然アリ!

 :ワンチャンお茶の間が凍る可能性もあるけど見たい


 CMか……。

 それはたしかに実現したらオイシイ話だな。

 たまに芸人とかがバラエティーで話してるけど、あれって契約金数百万?数千万?とかだったりするんでしょ?

 うおっ、想像したら鳥肌が……。


「あ、でもそしたら撮影用にモーションを取るだろうから、実際にたっくんがオムツ履いてハイハイしたりすることになるのかしら?」

「ごめんやっぱり嫌すぎる! 俺の人生において許容できない範囲で!!!」




――――――――――――――――――――――――――

どうでもいいあとがきコーナー


京葉線とかいう罠

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