彼女と俺の日常?の光景
もすまっく
第1話
夢と現実の境目で揺れ、ふわふわとした心地よさを堪能していた俺の耳に届く来訪者からの音。一番気持ちの良い時間を強制的にシャットダウンされ現実へと引き戻される。
「……んぁ……あぁ?」
気持ちの良い眠りを邪魔された俺は、苛立った頭で考える。
「何も頼んでねぇよな……?母さんも何も言って無かったし…………寝るか」
自分で何かネットで注文した訳でも無く、母親から何かが届くと言われた訳でも無い。となれば大体はどうでもいい勧誘か販売系だろうと考えた俺は居留守を使うことにした。
「この家には今は誰もいませーん帰ってくださーい」
暖かい布団の中でそう呟きながら目を瞑る。そうしている間もずっとインターホンは鳴り続けていたが、頭まですっぽりと布団を被り聞こえない振りをして過ごす。そうしている内に、しばらく鳴り続いていたインターホンが止まった事で安堵する。
「……やっと諦めたか。帰れ帰れ、俺は気持ちよく寝てるんだ」
これでまたゆっくりと寝られると思ったその時だった。
今度は枕元に置いていたスマートフォンから、お前に電話が来ているぞという着信音とバイブレーションが耳へと届く。
「何だよおい……誰だよマジで」
手に取ったスマホの画面には、全く知らない番号が映し出されていた。いつもは面倒なだけなのでこういったものは出ないようにしているが、先程の事による苛立ちから見知らぬこいつに当たってやろうと思い電話に出る。
「あ”あい?もしもし?」
「どうして貴方が苛立っているのか知らないけれど、苛立つのはこちらの方なの。どうせ部屋にいるのでしょう?他人に当たっていないで早く開けなさい?」
まさかの女性の声。しかも何やら聞き覚えのある声だ。驚いた俺は思わず上半身を起こし、部屋からでは見えないと分かっているのに玄関の方へ視線を向けてしまう。
「えっ、だ……れだ?」
「白川よ。白川ユリカ。分かったのなら早く開けて入れなさい」
「し、白川!?何で―――」
「いいから入れなさいよ。いたいけな女子高生をいつまで一人外で待たせるつもりなの?」
「……いたいけか?」
「うるさいわね。早く入れなさい」
「断る」
「なっ!?私がわざわざ来て上げたのよ?入れなさいよ!」
「他人の家の前で大声を出すな迷惑だ」
「貴方のせいじゃないの!いいから―――」
「…………白川?」
急に彼女の声が途切れた為、スマホを耳から離し画面を見ると通話が終了しましたという表示が出ている。
「何だったんだよあいつ。というかさっきのインターホンもあいつだったのかよ」
ここまで何しに来たんだと思いながら、俺はスマホを枕元に置き直し再び眠ろうと横になった。
どうせあいつが何も連絡すらせず勝手に来ただけだ。わざわざ来たからといって出る必要は無い。仮に男女が逆だったらやばいやつ認定される事案だ。
様々な言い訳を並べ、彼女に対して感じるちょっとした罪悪感を打ち消す。そうして目を瞑って再び横になっていると、またも何やら聞こえて来る。
「……何かうるせぇな」
白川の事もあり気になった俺は、何やら騒がしい玄関の方へ耳を澄ます。
「―――わいいわね!」
「いえいえそんな―――」
耳を澄ました事で聞こえた二人の女性の声。一瞬で全身が凍り付いたかのように冷え、冷や汗が流れ始める。
(待て待て待て待て、そういえば母さんは今日早いって言って無かったか!?嘘だろまさかこのタイミングで!?)
一人部屋で焦っている中、玄関のドアの開閉の音が聞こえ、声と共にスリッパを履いて歩く足音が聞こえて来る。勿論、声も足音もきっちり二人分だ。
俺は横になってはいられず、上半身を起こした状態で部屋のドアを固唾を飲んで見守る。
「貴広ー?もうどうして教えてくれないのよ!こんなに綺麗な彼女がいるって!」
「いえそんな綺麗だなんて」
そんな会話が俺の部屋のドアの向こうから聞こえて来た。
そして、まるでスローモーションかのように部屋のドアが開かれていく。
ゆっくりと開いて行くドアの隙間から、徐々に見えて来る彼女の姿。
長く綺麗な黒髪で、片方を耳に掛けている彼女の顔はとても魅力的で美しく、その薄っすらと微笑んでいる表情はまさに美の化身と言える程だった。
だが、そんな美しい彼女の目は、全く笑っていなかった。
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