ふぉーごっと ふぉー ぴーいー
@Amayayaya
ふぉーごっと ふぉー ぴーいー
「あ……」
倉田ほたるは大人しい小柄な高校1年生だ。
そんな彼女は忘れ物に気付くと、途端に顔を青くし、心臓を不快に奏で始めた。
この学校の先生は基本的に皆忘れ物に厳しく、教科書であれば「他のクラスに借りてきなさい」と、教室を追い出されてしまうのだ。
だから、彼女は行動せざるを得なかった。
女子更衣室のドアを開け、ひっそりと中へ入っていく。
部屋の中では体育終わりの三組の生徒が着替えており、シーブリーズや汗拭きシートの雑多な匂いがした。
また、ちらほらと次の授業がある四、五組の生徒が入室してきており、狭い。
そんな部屋に入り、私は一人の女子生徒に声を掛けた。
「唯ちゃん」
「ん? どうしたの、ほたる」
水野唯とは同じ料理研究部の部員ではあるが、普段ならこのタイミングで話しかけたりはしない。
のだが、
「あの、体操服を、貸してほしいです……」
「え、」
唯は、今まさに脱ごうとしていた手を止めた。
そう。今日は、体操服を借りに来たのだ。
「体操服、忘れたの……?」
「うん……」
「そっか……でも、私体操服って今着てるやつしか持ってないよ……? 当たり前だけど」
「うん、それでいいから貸してほしい。……先生に怒られたくないから」
体育の授業では欠席する場合でも原則として体操服に着替えなければならないのだ。
だから、何にしても体操服を忘れたというのはまずい。
「……でも、今日めっちゃ汗かいちゃったし」
襟ぐりを掴み、鼻を近づける唯。
今日一年生で体育があるのは私が所属する五組と合同でやる四組を除いて、唯が所属する三組しかないのだ。
そして、私は唯以外に三組に知り合いがいない。
だから、
「ちゃんと洗って返すからっ、お願いします」
「うーん……まあ……ほたるがいいならいいけど……」
「ありがとう……!」
「……じゃあ、あの、見られてると着替えづらいから」
「ご、ごめん」
ひとまず、私は離れた場所で待つことにした。
お待たせ、といって袋に入った体操服が渡される。
「……あの、本当にこれ着るの? めっちゃ濡れてるんだけど……」
「うん、唯ちゃんは嫌かもしれないけど、ごめんね」
「いや、私はいいけどさ……」
話しながらスカートのチャックを下ろしていく。
意外と時間がないので、素早く着替えなければならないのだ。
先生は遅刻にも厳しいから。
「ちなみに、洗わなくていいから、授業終わったら教室持ってきて」
「え、でも」
「ほたる、家持って帰ってお母さんに『何で私の体操服があるの』って聞かれるの嫌でしょ」
「うっ……」
図星である。
「こ、コインランドリー使うから……」
「体操服一枚にコインランドリーなんてもったいないからやめなさい。私が自分で持って帰って洗うからいいよ」
「う、うん……ごめんね……」
「別に謝らなくていいから」
唯が退室した後。
軽く畳まれた体操服の上を袋から取り出し、私にとってはワンサイズ大きいそれを着ていく。
「…………」
しかし、濡れていてとても着づらいのはもちろん。
「つめたっ」
汗で濡れた体操服は、手に持っていた時からわかっていたものの、やはり着てみるととても冷たくて。
乾いていない洗濯物を着ているような、そんな不快さがあった。
なのに──
──どくっ、どくっ、どくっ
首を、腕を、通し始めた時から。
なぜか、胸は強く痛むのだった。
ふぉーごっと ふぉー ぴーいー @Amayayaya
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