34 なんで、素直になれなかったの?

「夕雨、俺たち、何かあった?悲しい出来事とか。なんか最近、夕雨のことを思い出すと、悲しい気持ちになることが増えてて。」


夕雨は一瞬驚いたように見えたが、すぐにその顔を隠すように目を伏せた。


夕雨は、朝陽の事故後、記憶障害について調べていた。

消えた記憶は、古いものから思い出し、少しずつ今に近づいていく傾向にある。


つまり、もう"あの日"のことを思い出すのは時間の問題だ。


夕雨はしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。


「最初は仲が良かったんだけど、少しずつ、あなたが、私と一緒にいるのが辛くなったんだよ。気持ちがすれ違って、どうしようもなくなってしまった。」


夕雨は、かつての思いを振り返るように語り始めた。

朝陽は、夕雨の言葉を静かに聞きながら、徐々にその記憶を掴み始めていた。

彼の心にはまだ、夕雨への複雑な感情が残っていた。


「でも、なんで俺はそれを覚えてないの?」


朝陽が問い詰めるように言うと、夕雨は少し顔を曇らせて答えた。


「それは分からない。まだ思い出せてないんだと思う。」


そうか、という顔で朝陽はすこし俯く。夕雨は続ける。


「私たちが疎遠になったのは、私が素直になれなかったから。私が、あなたのことをどう思ってたのか、言えなかったから。」


その言葉に、朝陽は驚き、胸がざわついた。


夕雨が朝陽のことを"どう思ってたのか"、という言葉。


それを聞いた瞬間、朝陽は何かが爆発したような気がした。


「…なんで、素直になれなかったの?」


朝陽は、夕雨にさらに迫るように問いかけた。



夕雨の答えは驚くものだった。


「私はあなたに嫌われていると思ってたから。」

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