5.やさしい時間

24 穏やかな日々

夕雨は、朝陽との関係が少しずつ変化しているのを感じていた。

同僚たちは、そんなふたりを温かく(やや面白がりながら)見守ってくれている。


「白石さんって、いつもおすすめとかNo.1のメニュー頼みますよね」

「前髪……切りました? 5ミリくらい」

「白石さん、ポーチにホコリついてます。……あっ、ごめんなさい、ラメでした」


――温かく見守ってくれるのはありがたい。でも、もう少し助け船を出してほしい。


夕雨が微笑みながら、時折、「ちょっとうざいな」とつぶやくのを、誰もがどこかで楽しんでいるようだった。 

それくらい、朝陽は人懐っこかった。



特に、夕雨には困ることがあった。


朝陽はやたらと「何が好きですか?」「何が食べたいですか?」と聞いてくるのだ。


でも――そう聞かれるたび、夕雨は少しだけ困ってしまう。


ずっと親の顔色ばかりうかがって生きてきたから、自分が「どうしたいのか」なんて、考えたことがなかったのだ。


朝陽は相手の意思に対して丁寧な子で、育ちの良さが出ているのかもしれないと、夕雨は内心、感心していた。

面倒見がいいというか、「この人は愛されて育ったんだな」としみじみ感じさせられる。



その日の帰り道、夕雨は駅ビルの文房具売り場に立ち寄った。


昨夜、便箋と、ボールペンのインクが切れそうだったからだ。


鹿児島を離れて数年。

たったそれだけなのに、街の風景はじわじわと変わっていた。

新しい店舗、見慣れない看板。陳列棚の並びだって、少し違う。


便箋はすぐに見つかった。でも、替えのインクは困った。


(ああ、家で品番の写真でも撮っておけばよかった……)


後悔しても遅い。

とりあえず同じボールペンを売り場で探し出し、そこから名前を推測してみる。


たかが100円ちょっとのもの。たぶんこれで合ってる。

最悪間違っていても、まあいいか――今日、手紙を書こうと思ってたから、使えないと地味に困る。

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