5.やさしい時間
24 穏やかな日々
夕雨は、朝陽との関係が少しずつ変化しているのを感じていた。
同僚たちは、そんなふたりを温かく(やや面白がりながら)見守ってくれている。
「白石さんって、いつもおすすめとかNo.1のメニュー頼みますよね」
「前髪……切りました? 5ミリくらい」
「白石さん、ポーチにホコリついてます。……あっ、ごめんなさい、ラメでした」
――温かく見守ってくれるのはありがたい。でも、もう少し助け船を出してほしい。
夕雨が微笑みながら、時折、「ちょっとうざいな」とつぶやくのを、誰もがどこかで楽しんでいるようだった。
それくらい、朝陽は人懐っこかった。
特に、夕雨には困ることがあった。
朝陽はやたらと「何が好きですか?」「何が食べたいですか?」と聞いてくるのだ。
でも――そう聞かれるたび、夕雨は少しだけ困ってしまう。
ずっと親の顔色ばかりうかがって生きてきたから、自分が「どうしたいのか」なんて、考えたことがなかったのだ。
朝陽は相手の意思に対して丁寧な子で、育ちの良さが出ているのかもしれないと、夕雨は内心、感心していた。
面倒見がいいというか、「この人は愛されて育ったんだな」としみじみ感じさせられる。
*
その日の帰り道、夕雨は駅ビルの文房具売り場に立ち寄った。
昨夜、便箋と、ボールペンのインクが切れそうだったからだ。
鹿児島を離れて数年。
たったそれだけなのに、街の風景はじわじわと変わっていた。
新しい店舗、見慣れない看板。陳列棚の並びだって、少し違う。
便箋はすぐに見つかった。でも、替えのインクは困った。
(ああ、家で品番の写真でも撮っておけばよかった……)
後悔しても遅い。
とりあえず同じボールペンを売り場で探し出し、そこから名前を推測してみる。
たかが100円ちょっとのもの。たぶんこれで合ってる。
最悪間違っていても、まあいいか――今日、手紙を書こうと思ってたから、使えないと地味に困る。
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