16 弱さから逃げていた、そしてすべて失った

「いや、マジで。正直、自分ではあんまり覚えてないんですけど……大学3年の頃には、けっこうヤバかったらしいんですよ。自意識過剰で、強がって、冷たく振る舞って……勝手に突っ張ってたみたいで。」


朝陽は、手元のグラスをくるくる回しながら、ぽつりと続けた。


「たぶん、怖かったんですよね。弱い自分を認めるのが。一人で生きていけるから、誰かに頼るなんて情けないって思ってたし、他人のこともどこかで見下してた。……そんな人間だったらしいです。」


一拍置いて、ふっと笑った。


「でも、その“俺”がどんな奴だったか、自分じゃもうわからなくて。人から聞くしかないって、結構キツいんですよ。なんか、自分が自分じゃないみたいで。」


視線を伏せたまま、グラスに指を沿わせる。


「事故のあと、成績表とか残ってた記録を見ても、どこか他人事みたいで。日本のメーカーと組んだ海外研修とかも行く予定だったらしいし、いわゆる、エリートってやつですか?けっこう優秀だったみたいですよ。教授がきて、『もったいなかったね』って……なんか、すごく、あっさり、ね、言われて。何かが手のひらからこぼれてく感覚がしてました。」


そして、少しだけ笑って肩をすくめた。


「身体も動かなくなって、積み上げてたものもなくなって……全部リセットされて。起き上がることすらできない自分と、無理やり向き合うしかなくて。」


朝陽の声がかすかに震える。

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