16 弱さから逃げていた、そしてすべて失った
「いや、マジで。正直、自分ではあんまり覚えてないんですけど……大学3年の頃には、けっこうヤバかったらしいんですよ。自意識過剰で、強がって、冷たく振る舞って……勝手に突っ張ってたみたいで。」
朝陽は、手元のグラスをくるくる回しながら、ぽつりと続けた。
「たぶん、怖かったんですよね。弱い自分を認めるのが。一人で生きていけるから、誰かに頼るなんて情けないって思ってたし、他人のこともどこかで見下してた。……そんな人間だったらしいです。」
一拍置いて、ふっと笑った。
「でも、その“俺”がどんな奴だったか、自分じゃもうわからなくて。人から聞くしかないって、結構キツいんですよ。なんか、自分が自分じゃないみたいで。」
視線を伏せたまま、グラスに指を沿わせる。
「事故のあと、成績表とか残ってた記録を見ても、どこか他人事みたいで。日本のメーカーと組んだ海外研修とかも行く予定だったらしいし、いわゆる、エリートってやつですか?けっこう優秀だったみたいですよ。教授がきて、『もったいなかったね』って……なんか、すごく、あっさり、ね、言われて。何かが手のひらからこぼれてく感覚がしてました。」
そして、少しだけ笑って肩をすくめた。
「身体も動かなくなって、積み上げてたものもなくなって……全部リセットされて。起き上がることすらできない自分と、無理やり向き合うしかなくて。」
朝陽の声がかすかに震える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます