03 会えない君のこと

レモンくんからの返信が来る前に、夕雨は続ける。


「代わりに、今日ちょっと映画みて感想送るよ」

「いいね! 何を観るの?」

「『ジュリー&ジュリア』、少し前に話題になったやつ。」


スマホの画面を閉じて、日常に戻る。


現実を見ろ。

この家で私の世話をしてくれるのは私だけだ。

風呂場のエアコンをつけるのも、洗濯をするのも、食事を作るのも、誰かがやってくれるわけじゃない。

一つ一つを淡々と済ませていく。


シャワーを浴びながら、ふと考える。

"なんのために生きてるんだろう。"


何も驚くことはないはずだった。レモンくんとのやり取りは虚構だと理解していた。だが、何故かその言葉が胸に深く刺さる。

私は「存在しない」と言った。でも、その言葉が、何故か現実に引き戻すような気がした。

雨雲が胸の中で渦巻き、うまく整理がつかない。

それでも、機械的に、無意識に、一つ一つを済ませていく。

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