聖女の旗槍と魔女の呪焔を操りし者 第七回ドラゴンノベルス小説コンテスト(中編部門)参加中
白緑紫炎(旧黒薔薇)
第一話:デバイス
世界が赤々と燃えている、俺の傍らには守りたいと願った少女が倒れ伏し周囲には仲間たちが死屍累々といった様子で倒れ伏している。
そして俺の眼前には、この状況を引き起こした元凶が俺達のことを
俺の体力もすでに限界に達している。次の一撃が最後それで倒せなければ俺も含め全員死ぬだろう。
だからこそ、次の一撃に限界以上の力を込める!
『KYURORORORO――!』
俺の意思を感じ取ったのか奴が身構える。それは、初めて見せた明確な隙を作り出した。俺は、その隙をつくように駆け出した。
◇◆◇◆
「ハッ……ハアッ……ハア……ハア、あれは夢なのか?」
夢にしては妙にリアルな光景に見知らぬ人々……あれは何だったのだろう?
ま……深く考えても仕方ないか所詮は夢だし、それに今日は今年から国立探索者養成高校……通称“探高”に入学する生徒のデバイス支給日だから自分でも気づかないうちに緊張してるんだろう。
ふとベッドサイドにおいているデジタル時計が目に入る、そこに表示されている時間は七時二十五分……それを見た瞬間俺の顔から血の気が引いていくのが分かった。
俺の自宅から異高まではどんなに急いでも三十分はかかる、しかもデバイスの支給は八時からと来ている。更に言うなら測定に間に合わなかった生徒は学習意欲なしとみなされて即刻退学処分……っとほうけている場合じゃない。急がないと!
昨夜準備いておいたおろしたての制服に着替えながら急いで玄関に向かう。その途中通りがかったリビングでうたた寝をしている母に帰宅後文句を言うことを誓って俺は家を出発した。
「いってきます!」
◇◆◇◆
「ゼー……ゼー、スー……フゥー。ま……間に合ったー!」
現在時刻は七時五十八分、なんとか間に合ったようで全身の力が抜け体育館の入口でそのままへたりこでしまう。
「よっ、危なかったな普段はこんなギリギリになんない
そうやって俺をからかってきたのは、中学時代からの友人の
「うるせーよ、俺だって好きでこんなギリギリに来たんじゃねーし」
俺はふてくされたようにそう返した。
「そう不貞腐れんなって、からかって悪かったよ」
全く悪いと思っていないみたいじゃないか……。
「貸し一な、忘れんなよ?」
「あぁ、分かったよ」
そうやって俺達が、いつものようにじゃれ合っていると周囲がざわめき出した。俺と新司が喧騒の中心に揃って目を向けるとそこには、学園の頂点にして理事長の一人娘であり『
「ンン、静粛に」
理事長のその言葉は喧騒の中でもよく響いた。そしてその言葉が発された瞬間、見えない何かに押しつぶされるかのようなプレッシャーが俺達を襲った。
な、んだこの圧力は……。
「静かになったようなので、このあとの流れを説明する……といっても簡単な説明の後にデバイスを支給するだけなのだがね。では、説明を始めるからよく聞くように……知っているものも多いと思うが公立、私立問わずに探索者高校では新入生に対して入学式の翌日にデバイスを支給している。このデバイスとは今からおよそ三十年前……202X年我々の世界に現在ではダンジョンと呼ばれる異界に繋がる
あまりにも有名すぎる事件だ。そして、その事件を解決したのが……。世界各国から集められた初めてデバイスに適合した五人。
「このまま、アメリカは愚か世界中が同じように破壊されるかと思われていたその時ダンジョンを最初に調査したときに唯一持ち帰られた物質の研究をしていた学者であるベンジャミン・バーグマン博士が開発し、初めて使用したものが現在のデバイスだ。彼のデバイス開発によって状況は好転し現在ではアメリカも復興している。これがデバイスの成り立ちだ。そしてデバイスとは"所持者の深層心理にアクセスし、読み取った深層心理と最も適応する幻想をリンクさせることで現代兵器の効かないダンジョンの魔物を倒すことのできる武装を顕現させることができる”というものだ」
理事長の話に耳を傾けていると、肩を突かれたのでそちらを見ると……。あくびを噛み殺している新司が話しかけてきた。
「なぁ、ソウマ理事長の話長くないか?いまどき誰でも知ってることだぞこれ」
「バカ、黙ってろ。初日から怒られても知らないからな」
「誰が馬鹿だ、誰が」
馬鹿と言われて不機嫌なふりをした新司が俺を小突いてくる。
「ふふ、私の話は退屈かな?」
恐る恐る声の方を見ると額に青筋を浮かべ顔は笑っているのに目が笑っていない理事長に俺達は睨まれていた。
「おい、新司お前のせいだぞ」
「なんでだよ、お前だって喋ってたじゃないか」
醜い言い争いをしていると、更に青筋を濃くした理事長が手を二回叩いた。
その瞬間、どこに隠れていたのか黒服のごつい男が二人出てきた。なんかドラマとかで見るSPみたいな人たちだな……なんて場違いなことを考えていると新司ともども首根っこを捕まれステージに連行されてしまった。
「それでは、この二人にデバイスの使い方を実演してもらおうと思う。シャルロッテ、あれを持ってきなさい」
理事長が指示すると彼女は一度舞台袖に下がると様々な大きさのキューブが乗ったワゴンを押して戻ってきた。
「諸君の中で所持者のいないデバイスを見たことがある者はいるかね?」
理事長の問いかけに数人ほど手が上がる。
「もうおわかりでしょう、いまシャルロッテが運んできたもの……これがデバイスです。ではそちらの少し軽薄そうな君、どれか一つを選んでくれたまえ」
新司が指名された、というか少し軽薄そうな君って……いや確かにチャラいけども。
俺が笑いをこらえていると、新司が俺を一睨みした後ワゴンの上にある紫がかったキューブ……いや、デバイスを手に取った。
「選びましたけど、この後どうすんすか?」
「デバイスに意識を集中してみてくれたまえ。そうすれば言葉が浮かんでくるはずだそれを口に出せばいい」
理事長の言葉を受けて新司が目を閉じて集中し始めた。それから数分たった頃に新司が目を開いた。
『さあ、トリックスターのお出ましだ!It's showtime!』
新司が光りに包まれる……!俺はその光のあまりの眩しさにとっさに目をつぶった。光が晴れるとそこには、薄紫の剣身をもち柄にヤドリギのツタが巻き付いた剣を持った新司が立っていた。
「うぉぉ!これが俺の武器“
感極まった新司が自分の武器を矯めつ眇めつしながら大騒ぎしている。その様子に俺を含めた新入生全員が正気を取り戻した。
「以上がデバイスの使用方法だ。デバイスを使った戦闘の方法などは明日以降授業で習うことになる。それでは、ここにいるもう一人の男子から初めてあとはクラス順にデバイスを受け取り今日は解散とする」
◇◆◇◆
「なあ、ソウマお前のデバイスってどんなやつなんだ。お前体育館では顕現させてなかっただろ?」
そうだな、新司の言う通り俺は体育館では顕現しなかった。今後この学校にいる生徒はほとんど全員が仲間でありライバルでもあるだろうから体育館では顕現しなかったんだよな。
「ああ、ほらいくらこれから仲良くしていくと言ってもほとんど全員初対面の相手にはまだ見られたくなかったからさ。だから今から確認するよ」
「おいおい、俺には見せてもいいのかよ?」
新司は俺の答えなんて分かっているはずなのにからかうようにニヤニヤしながら聞いてきた。
「お前はいいんだよ。親友だしな」
意趣返しに即答してやると、新司はたじろいだ。
俺の勝ちだな、という目を向けてやると新司はまいったよといった表情で両手を上げた。
「ま、そんなわけだから今から顕現してみるよ。『勝利と栄光を!』」
俺の詠唱と同時に新司のときがそうだったように光があふれる。光が収まった時、俺の手には穂先に近い柄の部分に白い布地に青い盾が描かれ盾の中央には剣がその両隣にはフルール・ド・リス、剣の上部に王冠が描かれた旗がついた白銀の槍を握っていた。
“聖女の
そんな言葉が俺の頭に浮かんだ。これが……俺のデバイス……か。
「おおー、ソウマそれなんて名前の武器なんだ?」
新司が興奮した様子でこちらに迫ってくる。とても鼻息が荒いし近い!
「離れろ!顔が近けーよ」
俺が、新司を突き放すとわざとらしい様子でショックを受けた顔をして倒れ込んだ。はぁ~
「わざとらしいことすんなって。っと、話が脱線してたな……俺の武器の名前だったな。俺の武器は、“聖女の
「はぁー、“聖女の
笑いやがったこいつ!
俺が新司を睨みつけると奴は視線から逃げるようにベッドに潜り込んだ。
「覚えてろよ新司!」
俺は、収まらない怒りを抱えながら寝ることにした。
◇◆◇◆
俺と新司は少し早めに教室に登校して、駄弁りながら時間を潰していた。
女性の好みや今後どんな活躍がしたいかなどの他愛ない話だ。
「ワリィ……ソウマちょっと雉を打ってくるわ」
「そこは素直にトイレって言っとけよ」
「ばっ、ぼかした意味ないだろーが」
――ふん、昨日の仕返しだ
「いいから、さっさと行ってこいよ」
うぅー、漏れる漏れると新司はつぶやきながら教室を出ていった。ちょうどその時俺と新司しかいなかった教室に一人女子が登校してきた。水色の髪にボブカットで胸は薄い、見事なまな板だ。しかし、幼児体型ってわけじゃないな……。
俺の視線に気づいたのか女子生徒がこちらを見た。
「おはようございますッス。ボクが最初だと思ってたッスけど貴方が最初だったんスね」
「あ、ああ……おはよう」
俺はにこやかに挨拶してきた彼女に戸惑いながら返事を返した。
しかも彼女は俺の隣の席みたいだった。ちなみのこの学校は、五十音順ではなく完全ランダムで席が決まる。
「どうやら、隣の席みたいッスね。あ、ボクは萩野葵って言うッスよ。貴方の名前を聞いてもいいっスか?」
――萩野葵……?
俺の脳裏に幼い頃の記憶が駆け巡った。そう……あれは小学校低学年の頃の夏休みだったはずだたった数日だが今までの十数年の中で最も色濃く残っている記憶……。
「まさか……アオちゃん、なのか?」
俺は動揺を隠しきれずに問い返した。
――いや、でもそんな偶然起こるはずないしな……。
チラと彼女を見ると彼女もまた、目を見開いてこちらを見つめ返している。
「もしかして……創ちゃんッスか?だってボクをそう呼んだのは後にも先にも創ちゃんだけッスから……」
俺の予想は間違っていなかったらしい。どうやら彼女は、俺の昔なじみで間違いがないようだ。
「あぁ……久しぶりだね、元気だったかい?いやその様子を見るととても元気そうだねアオちゃん」
◇◆◇◆
葵と再開した後俺達は新司が戻ってくるまでの間に昔話や近況について話を弾ませた。どうやら当時彼女の父方の叔父の家に遊びに来ていたときに俺に出会ったらしい。
そうこうしていると新司が戻ってきてひと悶着あったけどめんどくさいので放置していたら、流石に静かになったので経緯を説明してやった。
そして現在一限目、自己紹介が行われることになった。
「俺は原田新司って言いまーす。武装は昨日見た人がほとんどだと思うけど改めて
最初は、新司からになった。相変わらず軽い自己紹介だことで……まあ、あいつらしいといえばそうか。
それから数人が自己紹介をした後、葵の番が来た。
「ボクは萩野葵って言うッス。武装は
ちなみに新司の自己紹介を受けて全員が名前と武装を言うことになっていた。いや、もっとこう普通なら好きなものとかを言って交流を深めるもんじゃないのか?
まあ……いいか。っと、俺の番みたいだな。
「俺は天宮創魔といいます。武装は、聖女の
その後も、自己紹介が続き三十六人全員の自己紹介が終わった。
「全員自己紹介が終わったみたいなので次は先生が自己紹介します。先生の名前は白河麻里といいます。武装は
白河先生の自己紹介を最後に一限目が終わった。
二限目は、実技らしいので新司と一緒に更衣室へと向かっていると、背後から声をかけられた。たしか彼は……。
「えっと……鈴木くん、でよかったよね?」
さっきの自己消化で聞いていたなめを思い出しながら問いかける。すると、彼は肯定するように笑って頷いた。
「席が近いから、話しかけてみたんだ。よかったら一緒に更衣室に行ってもいいかい?」
「俺はいいぜー、ソウマお前もいいよな?」
俺も問題なかったので了承する旨を伝えようとした瞬間……。
「キャァアァアアアアァア!」
聞き覚えのある声で紡がれた絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。
――葵っ!
俺は、焦りでもつれそうになる足を必死に動かしながら声の発信地へと向かう。
現場についた瞬間に俺の目に飛び込んできたのは怪我をした女子クラスメイトを庇う葵の姿と彼女に今にも襲いかからんとする異形の怪物だった。
「くそっ、間に合えぇぇぇ!『勝利と栄光を!』ウオォォォォォ!」
ガキィィン!
なんとか滑り込んで怪物の一撃を受け止めるが、想定以上の重さに俺は吹き飛ばされ壁に激突した。
「創ちゃん!」
「カハッ……、ま……まてお前の相手は俺だ」
俺は、なんとか挫けそうになる足を奮い立たせて俺のことなど眼中にもないといったふうに葵たちを見ている怪物に対して武装を向ける。
――せめて葵たちが避難する時間くらいは稼がないと……。
「葵、俺が時間を稼ぐからその事一緒に逃げて先生や警備兵を呼んできてくれ!」
「創ちゃんをおいて逃げるなんて出来ないッスよ!」
「葵しかいないんだ!それに絶対に守ってみせるから。もう時間がない、それに死ぬつもりなんて微塵もないからな」
俺は葵を安心させるように笑みを向ける。
「わかったッスよ。でも絶対に死んじゃだめッスからね。すぐに先生を呼んでくるッスから」
「あぁ、早くいけ!」
俺の言葉とともに葵は怪我をしている子を抱えて走り出した。そんな葵たちを追撃しようとする怪物の攻撃を防ぐ。
ガキィィン、ガッ……ガガッ!
怪物は、どれだけ攻撃しても立ち向かって来る俺を鬱陶しく思ったのか今までにない一撃を放とうとしているのが分かる。
『グウルルルルアアアァァァア!』
ドゴーン!
なんとかヤツの一撃を受け止めたはいいが俺は校舎に叩きつけられた。
「よくお耐えになりましたわ。後は私にお任せなさい」
そんな声と陽の光にきらめく金髪が見えたのを最後に俺は意識を手放した。
聖女の旗槍と魔女の呪焔を操りし者 第七回ドラゴンノベルス小説コンテスト(中編部門)参加中 白緑紫炎(旧黒薔薇) @black_rosen
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